「コーチングのプロになりたい!」という人の後ろ向きな“本音”

» 2010年03月26日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 “コーチング”というのは一時の流行で終わると思いきや、今やマネジメントの必須ツールとして根付いたような感じもあり、ビジネス以外にもコーチングを使おうという動きも盛んになってきています。それにつれて、コーチという職業の人やコーチングを仕事にしようという人がどんどん増えているようです。増えるのは悪いことではありませんが、これほどコーチが増殖すると玉石混交になるのは必至です。特に気になるのは「コーチになりたい」という人たちの中に、その動機がとても安易である人が少なくないことです。

 1つ目は、自分の可能性に見切りをつけたのか、成長意欲を失って自らを鍛える気がなくなった人。厳しい環境にいたくない人には、コーチという仕事はとても魅力的に見えるはずだということです。新卒で教師になろうとする、または塾講師など教育に携わろうとする人たちにも少なからずいますが、「他人の問題にコミットすることで、自分の問題に向き合わなくて良いような気にさせてくれる仕事」なのでしょう。公教育の問題は多く、その1つに教師の資質と経験の問題が挙げられるわけですが、コーチングの世界にもこれと同じ現象が起こりつつあると思います。

 2つ目は、未経験可であること。コーチングでは一般に、相手の専門分野や個別の事情を一定以上理解する必要はないとされます。答(目標や課題、実行すべきことやその計画)は相手の中にあるのであって、それを引き出すために必要なのは主として質問の力であり、こちらの経験や識見は大して重要視されません。求人票で言うなら、「未経験可」です。さまざまな仕事で専門分化が進み、社会も多様化・複雑化していく中で、そんな動きに必死になってついていく必要はない、質問する力と聴く力があればOKだというのは非常に魅力的な話でしょう。

 3つ目は、本音を話さなくて良い仕事であることです。普通の仕事であれば、本音をさらけ出す、語り合う、議論する、ぶつかり合うことがチームとしての成果を上げるために大切なプロセスとなるわけですが、コーチはそんなことをする必要はありません。「自分の意見を原則的には言わなくて良い(言わない方が良い)」のですから、精神的にはとても楽です。本音を言えば、ほかの人の主張と異なる点が出てくるので、それがストレスにつながるというのが普通の仕事ですが、そんなのは面倒、嫌だと考える人には格好のストレスフリーな仕事と言えます。

 もちろん、コーチになりたい本人は「クライアントの成功を支援したい」のが動機だと思っていて、それも本心なのでしょうが、もう1つ、「成長意欲不問」「未経験可」「本音は言わなくてOK」とは何て素晴らしい仕事なんだ、というのがコーチになりたい人が増えている大きな裏の理由でしょう。単にすそ野が広がるだけでは、コーチングという技術と考え方が個人や組織を良くしていくことにはなりません。本物のプロコーチのみなさまは、無意識も含めてこのような動機でコーチをやろうとしている人たちと一緒にされないうちに、コーチという職業に必要な資質・素養・見識などについてメッセージを出した方が良いのではないでしょうか。。(川口雅裕)

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