パナソニックの「まるごと事業」に秘められた甘い罠(2/2 ページ)

» 2010年03月24日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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パナソニックの戦略の罠

 しかし、このパナソニックの戦略には、意図的か結果的にかは分かりませんが、巧妙な罠が仕掛けられています。

 その罠とは、我々のような買い手企業の調達・購買機能の一部を肩代わりするという便利さを提供することで、少しずつ我々の調達・購買能力を失わせ、パナソニックに頼らざるを得ないという状況を作り出すというものです。

 分かりやすい例で言えば、事務用品のアスクルや消費者向けのコンビニが、簡単にモノが買えるという機能を提供することで、価格競争を回避しようとしているのと同じことです。

 ただ、設備購買が事務用品や消費者の購買と大きく異なるのは、その金額が非常に大きいということです。また、パナソニックの目指すところは、中間流通ではなく、グループの営業窓口の一本化ですから、品揃えにも限界があります。その時に便利さをとるべきか、調達・購買能力の維持を取るべきかは、各社の判断にもよりますが、弊社は圧倒的に後者の立場です。

 パナソニックグループ各社の方には申し訳ないのですが、パナソニック、パナソニック電工、三洋電機がどれだけ優れた会社でも、それらが提供する製品・サービスがすべての市場の中でベストである、ベストであり続けるということは考えられません。

 事務用品や消費者の購買であれば、多少の品質・コストの差は目をつぶって便利さを取るという判断はあるかと思いますが、設備購買でそうした判断はありえないのではないでしょうか。

 ただ、設備購買の難しい所は、購入頻度が少ないため、設備購買ができる担当者の維持、確保、育成が非常に難しいという所にあります。求められる能力は非常に高いのに、それが発揮される機会は少なく、人材育成も難しい。そうした中で、買い手企業はついついエンジニアリング会社やゼネコンに頼ってきた。その過程で、仕様・価格査定能力を失っていく。それと同じ臭いを、どうしてもこのスキームには感じてしまいます。

 パナソニックが悪事をしているとはまったく思いません。いや、むしろ、売り手企業としては、本当に正しいことをしている。純粋に顧客のために、より良い製品・サービスを提供したいということからでも、同じ戦略に行き当たります。

 「それが自社にとって本当にベストかどうか評価できる能力を買い手企業は持ち続けなければならない」「パナソニックの今回の戦略に我々が乗るのが正しいのか、乗らないのが正しいのかを、的確に評価する」、ただそれだけです。

 パナソニックのことですから、この営業窓口には、さっぱりとした印象の非常に優秀な切れ者の営業マンが何人も張り付き、多くの企業が絡め取られてしまうことが予想されます。

 天下のパナソニックで製品・サービスの質も高く、営業マンも優秀。その丸抱えで何が問題かと思われたかもしれませんが、こうした時に、自分たちが仕様・価格査定能力を失っているか否かを、どれだけの企業、経営者が理解しているでしょうか?

 目先のコスト削減ばかり重視し、あるいは担当者にまかせ切りで、自社の調達・購買能力のあり方を描けていない。

 これは、私の余計な心配でしょうか?(中ノ森清訓)

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