「就職氷河期、サイコー!」な人たちちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年03月22日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ロスジェネB面」の姿

 確かに、英語の不得意な先輩社員を尻目に、バリバリと海外関係の仕事をこなし、先輩らより数年も早く昇進も成し遂げたA君は自信に満ちあふれていて、「将来は役員となって今の事業の責任者になりたい」という野望も明確に語ります。

 彼を見ていると、本当の勝ち組は就職状況が楽だったバブル期や好景気の就職組の人たちではなく、企業が採用を抑えた就職氷河期に環境の良い大企業の正社員側に入ることのできたA君のような人たちなのだと分かります。彼らにしてみれば「就職氷河期、サイコー!」とでも言える状況なのです。

 A君自身も、「就職活動は大変だったけど、正直言ってバブル世代に生まれていなくて良かったです。あんな時代に生まれていたら、僕だって今ごろすっかりダメサラリーマンになっていたと思いますから」と自嘲気味に笑います。

 バブル時期に学生だった人たちは、超のつく売り手市場で非常に楽な就職活動をしていました。しかし、就職氷河期を乗り越えたA君の方が、今は明らかにそれらの先輩たちより恵まれたポジションにいるように思えます。

 あまりにもロスト・ジェネレーションのイメージからかけ離れたA君の姿ですが、これが数は少ないけれど実際に存在する「ロスジェネB面」とでも言える人たちの姿です。

 問題はこのA君の恵まれた立場が、正社員になり損ねた多数の同年代の人たちの存在の裏返しにある、ということです。同世代に同じレベルの訓練や仕事の機会を得られた人が少ないからこそ、A君の立場は安定しているのです。

 また、バブル世代の人たちは多くが安定した仕事を得ることができたため、同一世代の中での格差はそれほど大きくありません。しかし氷河期世代では、成長と訓練の機会を(新卒時に)手に入れた人と、手に入れられなかった人たちとの格差が、ほかの世代よりも大きく開いてしまっています。

 A君も言います。「志望企業から内定をもらえた自分と、もらえなかった友人との間には、努力量や能力に多少の差はあったかもしれないけど、別の世代に生まれていたらここまでの格差にはならなかったはず。そういう意味では、ロスジェネ世代は、日本で一番“格差が激しい世代”だと思います」と。

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