海外メディアは日本に定着するのだろうか? WSジャーナル・小野由美子編集長35.8歳の時間(6/6 ページ)

» 2010年03月19日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
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WSJ日本版がスタート

WSJ日本版の記者発表会(写真左が小野編集長)

――2009年12月、WSJ日本版がスタートする(関連記事)

 これまで米国を中心に世界中の読者に「日本を伝える」という仕事に携わってきました。そのためにいろいろな取材をしてきましたが、「英語なので読めない」といった声もたくさん聞いてきました。また「日本語はないのですか?」と、よく言われましたね。そのたびに私も「WSJが日本語で読めたらいいのになあ」と思っていました。

 そして2009年の春に、WSJ日本版編集長の辞令を受けました。上司からは「会社としてこのプロジェクトはとても重要だ。それをあなたにやってほしい」と言われ、とてもプレッシャーに感じましたね。そもそも日本のマーケットで成功するというのは、とても難しいこと。米国で成功した方法をそのまま日本に持ち込んで、失敗した外資系企業は多い。なので「日本ではこうなんですよ」と、上司を説得することが難しかったですね。例えば最初は米国版と同じように、ぎっしり文字を詰め込もうという動きがありました。しかしPC画面上に日本語がつまっていたらとても読みにくい。このことを伝えても「余白があるじゃないか」と、なかなか分かってもらえませんでした。こうした基本的なことを分かってもらう作業が、とても大変でしたね。

 編集部の朝はとても早く、早番の人は朝の6時に出社します。というのも米国の本紙に合わせて記事が出てくるので、日本時間でいうと早朝から昼までが、ピークの時間帯。1日に記事は200本ほどありますので、その中から日本の読者が興味を持ちそうな記事を選び、翻訳しています。もちろん午後からも記事は掲載しますが、午後は会議があったり、企画を練ったりすることが多いですね。

 この仕事の楽しさといえば、読者に新しいことを知ってもらうこと。また記事を読んでいただき、読者に反応してもらうこと。それは嬉しかったり、感動したり、悲しかったり、怒ったり……反応があれば、なんでも嬉しいですね。一方、この仕事をしていて悔しいことは、やはりほかのメディアに抜かれたときです。

 一番の財産ですか? そうですね……知識ですかね。いろんなことを知れば知るほど、楽しいじゃないですか。いま一番興味があるのは、米国の行方。日本は政府と企業の関係が密なので、「ジャパン・インク(日本株式会社)」と呼ばれてきました。しかしそれは日本だけではなく、いまの米国も同じようなもの。世界同時不況の影響を受け、多くの米国の巨大企業は政府からの支援を受けました。つまりお金を援助されたわけですが、こうしたことはこれまでの米国では考えられなかったこと。

 公的資金を受けた企業では、自分たちの社長すら選ぶことができません。政府の許可がないと、何も決められない状況なんですよ。日本で起きていたことが、いままさに米国でも起きているので、私たちは米国のことを「USAインク(米国株式会社)」と呼んでいます。これからの米国はどうなっていくのか――とても気になりますね。

2009年12月にスタートしたWSJ日本版

――WSJ日本版は現在、翻訳記事のみを掲載しているが、次のステップではもっと日本版独自の記事を増やしていく予定だ。小野編集長に5年後は何をしていると思いますか? と聞いたところ「たぶんいまの仕事をしている」と答えた。5年後の2015年、メディアの勢力図は大きく変化していることだろう。ただ確信を持って言えることは「多くのメディアがデジタルへシフトしている」ことだ。

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