ウジウジする前に、ガツガツと働いてみてはどうだろうか相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年03月18日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者 宮沢賢一郎 誤認』(双葉文庫)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 「アイバさん、どうしてそんなにスケジュールを詰め込むの?」――。

 最近、筆者の周囲で若い世代の編集者、あるいは社会人になったばかりの呑み仲間からこんなことを尋ねられる機会が多い。仕事の詰め込み過ぎは、単純に数をこなさないと生活できないという理由からなのだが、実はこれ、筆者流の仕事術でもあるのだ。筆者のポリシーは「オファーは絶対断わらない」。今回の時事日想は、筆者なりの仕事術について触れてみたい。

アルバイト原稿で他流試合

 本コラムで「経費ゼロに耐えられるか……記者は自腹取材で鍛えられる」と題した原稿でも触れたが、筆者が在籍していた通信社は、取材経費の乏しさから業界内で有名な存在だった。取材に伴う飲食費を捻出するため、筆者はせっせと他社の原稿執筆を引き受けてきた。もちろん、表向きは内規で厳しく禁じられた行為だったが、経費削減を社是としていた古巣は、筆者を含めた多数の記者の「アルバイト原稿」を見て見ぬフリしてきた。

 筆者は2006年末に独立し、専業モノカキとなった。振り返ってみると、他社の原稿をせっせと書いてきたスキルが生きたと実感している。

 通信社の記者時代、執筆する記事は新聞やラジオ・テレビ向けの短いモノが主体。金融関係者向けに配信する記事にしても、専門用語を交えつつの短文が大半だった。が、いざ週刊誌や月刊誌の原稿を引き受けてみると、同じ文字を綴るという作業でも全く内容が違うことに驚かされた。

 編集者、あるいはアンカーライターと呼ばれる最終執筆者が記事のトーンや長さを決め、これに沿った形で企画を立てていくという作業に触れた当初は、同じ金融の話題を伝えるのに、通信社の記事とまったく違う作業があるのだと実感した。通信社の仕事が相撲のような伝統的、かつ制約の多いスポーツだとすれば、週刊誌や月刊誌の企画記事は、筆者にとっては「何でもアリ」の総合格闘技のような存在だったのだ。

 取材経費捻出のために飛び込んだ“他流試合”だったが、取材、あるいは文章を綴るという作業のスキルを格段に向上させてくれた。古巣の母屋にいて執筆する際は、中立公正はもちろんのこと、クレームを回避する保守的な記事が暗黙のうちに求められてきたが、他流試合では当然のことながら全く逆。刺激を強く、白黒をはっきりつけなければ媒体の売れ行きに直結するからだ。

 参加した当初は、編集者にドヤされる場面が多かったが、コツをつかんでからは次々に仕事が舞い込む好循環が生まれた。バイト原稿を引き受けて1年程度で、某有名経済誌でアンカーライターを務めるまでにスキルが上がった。同時に、担当編集者のツテで出版社の漫画部門から監修を依頼される、あるいは著名作家のブレーンに就いたりと、仕事の幅はノンフィクションからフィクションへと格段に広がったのだ。筆者がサラリーマン記者を辞め、小説と漫画原作の分野にシフトしたのも、こうしたサイクルの中で良き理解となってくれた多くの編集者に出会ったからなのだ。

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