若年貧困層が戦うべき相手は誰なのか?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年03月16日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

対立の構図を見ると……

 図で見てみましょう。左側が若者で右側が中高年です。上段(青とピンク)は「人件費がケタ外れに安い外国の労働力に代替されない能力を持っている人」で、下段はそういった国の労働者に「代替される人たち」です。

 現在は、グローバリゼーション(生産の海外移転など)によって、下段の人たちの給料が世界水準に向けて下がり続けています。世界では同一労働・同一賃金が普通ですから、「年齢が高いから」「妻子を養う必要があるから」「日本の物価が高いから」というような理由で、給料の額を決めるわけにはいきません。

 しかし、中高年の多くは正社員であるため給料が下げられません。そのため緑エリアにいる若者にしわ寄せが来ているのです。

 それぞれのエリアにそれぞれの主張を入れてありますが、ちきりんが違和感があるのは、ここで左下、緑エリアの若者が発する「結婚生活に必要な額を支払ってほしい」というタイプのスローガンです。

 前述したように、これは「年功序列賃金を払え」という主張と同じです。「給料は生活給である」という前提の上に立つ要求です。ちなみに上段の人にとっては成果主義制度が有利で、下段の人には年功序列賃金が有利なので、緑エリアにいる若者が「年功序列賃金が望ましい」と主張すれば、それは下段の人から上段の人に向けた要求と認識されます。

 けれど、ちきりんにはこの「上下の戦い」があまり生産的に思えないのです。なぜなら、上下の戦いは「資本主義の上段」と「共産・社会主義の下段」という構図だからです。資本主義では給料は成果に基づいて分配しますが、共産主義では成果とは関係なく生活費の必要性に応じて分配するのが原理原則です。

 しかし、その構図で今から戦うのは無理ではないでしょうか。1991年に解体したソビエト連邦を始め、共産主義体制は多くが崩壊してしまいました。また、社会主義的な政権の欧州の国でも、再分配機能は強化されていますが、下段の労働者の賃金制度は同一労働・同一賃金となっています。

 このグローバル経済の時代に、日本だけ「給料は成果に基づく額ではなく、生活必要額を払います。非正規雇用の人にも年功序列賃金制度を導入します」などという結論を勝ち取るのは不可能に思えます。

注目すべきは左右の問題

 しかし一方で、左(若者)と右(中高年)の問題に注目すればどうでしょう。下段の若者と中高年は、仕事においてほぼ同じ成果を出していても、既得権益を持つ中高年だけが正社員として手厚く守られています。同一労働をしているのに、若者は正社員になれず、その賃金は非常に低いのです。

 この左右の格差について「それはおかしい!」と主張するのは十分に理のある戦いです。こう主張するなら、若者たちの主張が通る可能性は十分あります。ちきりんが不思議なのは、若者たちがなぜ勝てる可能性のある「中高年との格差の理不尽」と戦わず、勝ち目のない「資本主義の原則」と戦おうとするんだろう、ということです。

 いや、若者の中にも「既得権益者である中高年VS.犠牲を押しつけられた若者世代」という対立構造を意識している人はたくさんいるでしょう。しかしながら、彼らの多くが「結婚できるだけの給料を払え」というスローガンが、その対立構造と矛盾していることに気が付いていません。

 彼らが唱えるべきはあくまで「成果に基づいて払え!」というメッセージのはずなのです。そうすれば、自分たちと変わらない成果しか出していない中高年(下段、赤エリアの人たち)が貪っている不当に厚い賃金を一部分配させることができるはずなんです。

 この「成果に基づいて払え!」というスローガンは、「結婚できる給与を払え」=「生活に必要な額を成果に関わらず払え!」というメッセージとは全く異なるものです。

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