“検察の正義”に委ねていいのか? 元検事、元司法記者が語る、小沢捜査の裏側(1/5 ページ)

» 2010年03月11日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 民主党の小沢一郎幹事長をめぐる政治資金規正法違反事件では、各メディアが小沢氏に関する疑惑を報じる中、検察は小沢氏の秘書ら3人を起訴し、小沢氏自身は不起訴とする方針を固めた。検察はなぜ小沢氏への捜査を行い、なぜ不起訴という結論に至ったのか。また、多くのメディアが検察と一体化したかのような報道を行った背景には何があったのか。

 共同通信社で司法記者を担当した魚住昭氏と東京地検などで検事を務めた郷原信郎氏は3月8日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見し、検察の“小沢捜査”の背景を語った。

元検事の郷原信郎氏(左)と元司法記者の魚住昭氏(右)

なぜ小沢捜査は行われたのか

魚住 今の日本は大きな問題を抱えています。それは検察庁という行政機関が巨大な力を持ちすぎて、誰もそれを統御できないということです。その上、検察は組織が腐敗し、かつ捜査能力が極端に低下しています。検察の暴走、腐敗、能力低下の3つが同時進行しているのです。それを如実に示したのが小沢幹事長をめぐる一連の捜査でした。

 2009年3月、西松建設関連の政治団体から2100万円の偽装献金を受け取った疑いで、小沢氏の秘書(大久保隆規氏)が政治資金規正法違反の疑いで逮捕されました。これは従来の常識では考えられない出来事でした。過去の摘発例を見ると1億円を超える裏献金を受け取った政治家が立件されたケースはありますが、政治資金収支報告書に記載されているオモテの金で、額が2100万円に過ぎないのに立件するというのは異常なことです。

 しかも衆議院選挙を目前にした時期に、検察は従来の立件のハードルをガクンと下げて、野党第1党の党首側近を逮捕しました。当然ながら、「この捜査は不当な政治介入だ」と世論の強い批判を浴びました。一部では、「当時の麻生政権の要請を受けて行われた国策捜査だ」という意見もありましたが、私はそうは思いません。検察はその時々の政権の意のままに動くような組織ではありません。特捜部の検事たちはいつの時代もそうですが、多少無理をしてでも政治家がらみの事件をやって手柄をあげ、マスコミの脚光を浴びて出世の足がかりにしたいのです。

元司法記者の魚住昭氏

 問題は「特捜部の暴走を検察の上層部がなぜ止めなかったか」ということです。私は上層部の判断の背景には「小沢政権ができることに対する忌避感があったのではないか」と疑っています。

 小沢氏はもともと検察と仲が良くありません。しかも彼は脱官僚、つまり検察を中軸とする中央官僚機構の解体・再編を目指すと公言している政治家です。「そんな人が首相になったら困る」という上層部の思惑が微妙に作用したのではないか。そうとでも考えなければ理解できない異常な捜査でした。

 2009年末から表面化した陸山会の土地購入をめぐる事件は、西松建設の事件で世論の批判を浴びた検察がその失地回復のために行った捜査でした。つまり、検察のやったことを正当化し、「小沢は金に汚い悪質な政治家だ」ということを証明するために行われたものです。

 この第2ラウンドの捜査でも検察は敗北しました。大物政治家を2度も被疑者として調べながら、起訴できないというのは、検察にとって戦後最大級の失態です。捜査が失敗した理由は明白です。「小沢氏の当時秘書だった石川知裕衆議院議員に5000万円の闇献金を渡した」という水谷建設(水谷功元会長)側の怪しげな証言を信じ込んだからです。

 まんじゅうに例えると、アンコに当たる部分が5000万円の闇献金で、皮に当たる部分が4億円の土地購入の不記載です。皮の部分の4億円の不記載は、煎じ詰めると「土地の購入時期を2〜3カ月ずらして政治資金収支報告書に書いた」という形式犯に過ぎません。5000万円の闇献金がその土地購入費にあてられたというアンコが立証されなければ、スカスカの皮だけのまんじゅうになって食べられたものではありません。

 ところが、検察が信じた水谷建設側の供述はうそ話だった。アンコが腐っていたんです。石川議員が否認を貫き通せたのは、まったく身に覚えがない事実だったからです。あらかじめ決めたターゲットを摘発する、つまり「小沢を狙い撃ちする」という捜査の常道に反することをしたから検察は失敗したのです。今回の事件だけでなく、10年あまり前から検察は同じような不純な捜査を繰り返すようになっており、検察の劣化・暴走が目立つようになりました。

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