著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotobike」
「バイク(自転車)って、こんなに長い距離を走れるんだ」
バイクに乗り出した数年前、あっという間に15キロを走っていた自分に驚いた。自分の脚の力だけでどこまでも行ける。そのワケは軽さだ。私が乗っているのはアマ向けのロードバイクだが、車体重量は10キロ。普通のママチャリは20キロくらいだから半分だ。その軽さゆえに路上のかもめになれる。私を自由にしてくれる魅力がある。
ところがもとは10キロでも、本格的に乗ろうとすればするほど“重量増”は免れない。ヘルメットをかぶり、バッグを背負う。サドルバッグや水分補給ボトルを装備し、前後部にはLEDライトをつけ、電池切れに備えて予備電池やサイクルコンピュータも搭載。パンクのリスクに備えて、携帯空気入れとパンク修理セットも欲しい。春はサングラスもかけたいし、走れば小腹も減る。そうそう、片手でオニギリをほお張るサイクリストも見かけたことがある。せっかくの軽量化もこれじゃあね。
ロンドンのRoyal College of Artに通っているプロダクト・デザイナーのKai Malte Roeverさんも同じ悩みを持っていた。
「ロンドンは公共交通機関中心の街だからイライラがつのるんだ。だから、チャリで通い出したんだけど、クルマは多いし、自転車道路も少ない。しかも、路面がとっても悪くて、パンクは日常茶飯事。だからバイクに乗る人はみんな空気入れを持っているんだ」
Kaiさんは、ロンドン・サイクリストの“4つ道具”に注目した。ヘルメット、前後のLEDライト、そして携帯用空気ポンプ。なんとかこの必携用具だけでも減らせないだろうか?
ライトをつけるには電気が必要。空気を入れる時には、ポンプ動作の人力が加わる。ならば、その動作で発電して充電し、LEDライトを照らせないだろうか。そうすればサイクリストの持参道具を1つ減らせる。かくして「ライトと空気入れを一緒にしよう」という発想、「PUYL(Pump Up Your Light)」が生まれた。
構造的にはファラデーの電磁誘導の法則をベースとして、磁石を内部に持ち、ポンプ運動で発電・充電を行い、低電力・高輝度のLEDライトをともす。
「PUYLってどう発音するのですか?」と尋ねると、「ピュェルさ」とKaiさん。口の中で「ピュェル、ピュール……」と唱えてみたが、日本人には「ピュール」でいいかな。開発上のコードネームだが、彼は「ライトをポンプしよう」のネーミングが気に入っているという。
「EUROBIKE AWARD students 2009」も受賞したデザインをもとに、KaiさんはPUYLのプロトタイプを制作。たった1つのサンプルは引っ張りだこで、今も欧州のどこかの国をさまよっているはずだ。
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