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» 2010年03月05日 16時04分 UPDATE

もう1つの電気自動車、燃料電池車

CO2問題、エネルギー問題を踏まえ、急速に普及してきたハイブリッドカー。次の飛躍はやはり電気自動車なのか? 実はもう1つの選択肢として研究開発が進んでいる自動車がある。水素を燃料として使う燃料電池車だ。その魅力と課題をFC EXPOの講演から探る。

[斎藤健二,Business Media 誠]

 来るべき未来の自動車は電気自動車なのだろうか? 概ねイエス。しかしそこに至る道程は、ガソリン自動車がハイブリッドカーになり、次に電気自動車がくる……というシンプルなものではなさそうだ。電気自動車へのミッシングリンクを埋めるもの。その答えの1つかもしれないのが、燃料電池車だ。

 3月4日に行われた「FC EXPO」の基調講演から、もう1つの電気自動車である燃料電池車の魅力と課題を探ってみよう。

電気自動車の課題を解決する燃料電池車

 ガソリン車が石油燃料を使ってエンジンを動かすのに対して、電気自動車は外部から電気を充電してモーターを動かす。そして燃料電池車は、水素を化学反応させて電気を生み出しモーターを動かす。ハイブリッドカーよりは電気自動車寄りと言える仕組みの自動車だ。

ks_fcv4.jpg ホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」の構造(ホンダWebページ資料より)
燃料 中間 エンジン
ガソリン車 石油燃料 内燃機関
ハイブリッドカー 石油燃料 エンジンを使って発電 内燃機関/モーター
燃料電池車 水素 燃料電池で発電 モーター
電気自動車 電気 モーター

 一見して分かるとおり、燃料電池車は電気自動車に比べると複雑な仕組みだ。それでも一足飛びに電気自動車に進まず、燃料電池車の開発が続いている背景には、電気自動車が抱える大きな問題がある。

 「電気自動車が流行りだが、行動範囲が狭い、充電に時間がかかる」と、経済産業省 燃料電池推進室の飯田健太室長は話す。

 電気自動車の課題は、一回の充電で走行できる距離が短いことだ。“チョイ乗り”がメインの用途であり、すぐさまガソリン車にとって代わるには厳しい。一度に長い距離を走れるようにするには、大きく重く高価なバッテリーをたくさん搭載しなくてはならない。現実的な航続距離は100キロメートル程度と見られており、改善していくにはバッテリー技術の進歩が必須だ。

 そしてバッテリーの充電には時間がかかる。専用の電気自動車充電ステーションでも15分〜30分。家庭の電源で充電するなら一晩はかかるというのが現状だ。さらにバッテリーをたくさん搭載すれば、比例して必要な充電時間も伸びる。

 この2つの課題を、燃料電池車はすでに解決している。

 「ポイントは航続距離と(燃料の)チャージ能力。(燃料電池車は)ガソリン車と同等だ」と、燃料電池車「FCXクラリティ」を開発した本田技研工業の守谷隆史執行役員は話す。

 電気を充電するのではなく、水素を使うことで燃料をチャージする時間は短縮できる。水素ならば、発電に使う燃料電池ユニットを合わせても、同じ重さのバッテリーよりも長い時間走ることができる。

ks_fcv3.jpg 各社の燃料電池車。上からホンダの「FCXクラリティ」、トヨタの「FCHV-adv」、日産の「X-TRAIL FCV」

 FCXクラリティ(試乗記事)は航続距離620キロ。510キロの道程を無給油で走行する実証実験もクリアした。水素の充填時間は3〜4分とガソリン車と変わらない。

 一方で、ガソリン車の課題であるCO2排出量や、消費エネルギーに関しては改善されている。「ガソリン/ディーゼル車に比べて、車両起源のCO2排出量は2分の1以下。CCSや再生エネルギーと組み合わせることで80%減にできる。車両の消費エネルギーは2分の1以下にできる」(新日本石油の村松幾敏副社長)

 ちなみにCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは、CO2回収・貯蔵技術のこと。水素は天然ガスを改質したり、発電所の電力を使って水を電気分解することで得られる。「水素を産み出すために天然ガスを使ったり、火力などでの発電が必要になったりするので、CO2はやっぱり発生しているのではないか?」という疑問への答えがCCSだ。プラントで集中して水素を取り出す形ならば、CO2を隔離して地中などに保存することが可能になる。現在各石油会社、電力会社などが主体となり、大規模実証実験に向けて調査を行っている。

燃料電池車が抱える課題

 燃料電池車は、まさに電気自動車とガソリン車のいいとこ取り。しかしまだ実用には時間がかかる。「2015年に一般販売開始。2025年には補助金なしで、燃料電池車が自立的に販売できるようにしたい」(経済産業省の飯田氏)というのが現在のスケジュールだ。

ks_fcv2.jpg
COCN「燃料電池自動車・水素供給インフラ整備普及プロジェクト」資料より

 大きな課題は2つある。「燃料電池車の問題は、コストと、水素ステーションが必要なことだ」と飯田氏。現在、燃料電池車のコストは1台あたり1億円程度。これを2015年にはガソリン車の3〜5倍の価格に、2020年には1.2倍まで下げていくというのが経済産業省の計画だ。

 コスト高の原因は、水素を使って発電する燃料電池ユニットにプラチナなど高価な材料が必要なこと。そして水素を使うということで高圧タンクなど水素周りの専用部品が必要なこと。最後に高圧電装など電気系の専用部品が必要なことだ。

 ホンダでは量産化によるコスト削減に向けて製造工程の自動化を進めるとともに、部品点数の削減、普及材料を使った燃料電池の開発に取り組んでいる。電気系専用部品については、ハイブリッドカーとの共用化を進める。この点はハイブリッドカーの普及によるコスト削減と性能向上がそのまま転用できる。また水素周りの技術については標準化が必要だと守谷氏は話す。日米欧で規格や基準、法規が異なることがコスト高につながるからだ。「水素充填の圧力、急速充填手法などが、地域によって統一されていない」(ホンダの守谷氏)

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 もう1つの課題である水素ステーションについては、ステーション自体の建設コストと、水素の値段がネックとなっている。ガソリンステーションの建設費が数千万円なのに対し、水素ステーションは現状約6億円。

 2015年から燃料電池車の普及に先行して水素ステーション数を増やし、技術革新と共に量産によってコストも低下させていくという計画だが、運営側の設備投資負担は重い。2025年までに約4500億円が必要と見積もられている。水素ステーションを進める新日本石油の松村氏は、「普及初期は設備投資負担が大きくステーション自立は困難。低炭素社会に向けた国全体の投資と捉え、産官民で応分の負担をする制度設計が必要だ」と話す。

 現在水素ステーションは実験規模であり全国で15カ所程度だが、2015年の普及開始と共に1000カ所まで増やす。まずは高速道路のサービスエリアにステーションを設置していき、その後“水素タウン”と呼ばれる都市にステーションを集中配備していく計画だ。2030年までにはステーション5000カ所を目指す。ガソリンステーションは全国に現在約5万カ所あり、10カ所に1つは水素も供給できるようになるイメージだろう。

燃料電池車は日本の切り札か?

 ポテンシャル的にはガソリン車を置き換えられる力を持った燃料電池車だが、技術的課題は山積みだ。それならば一気に電気自動車を目指すべきではないか。水素ステーションではなく充電ステーションを増やし、バッテリーの性能向上に研究開発を集中すべきではないか。そんな議論もあるだろう。

 それでも、ホンダ、トヨタ、日産といった国内自動車メーカーが研究を続け着々と実用化を目指す背景には、燃料電池車は日本が持つ技術力を大きく生かせるという目論見がある。

 昨今、国内外で電気自動車を製作・販売するベンチャー企業が続々誕生している(関連記事)。ガソリン車に比べ部品点数が少なく、構造が簡単なのが電気自動車。大規模な自動車会社でなくとも、簡単に参入できる。一方で燃料電池車の開発は容易ではない。

 「電気自動車にはベンチャー企業が入ってくる。燃料電池車は、モノ作りの技術の感じがする。日本の強みを生かせる分野なのではないか」(経済産業省の飯田氏)

 燃料電池関連の特許は、世界でも日本企業が数多く押さえている。国内では1万8023件の特許のうち1万6534件を日本企業が持ち、米国でも7036件中2469件を、欧州でも6174件のうち2537件が日本企業の特許だ。

 電気自動車では数多くのベンチャー企業と真っ向勝負となる。燃料電池車がメジャーになれば、引き続き日本企業が世界の自動車作りのトップでいられる。そんな思惑が業界にはある。「世界に先駆けて燃料電池車普及を進めることで、世界のトップランナーである自動車関連産業の国際競争力を強化できる」(新日本石油の松村氏)

 ガソリン車中心だった自動車は、急速にハイブリッドカー市場が立ち上がり、すでに販売台数の10%程度を占めている状況だ。今後の数十年、自動車産業が大きく変革していくのは間違いない。一気に電気自動車が普及し、ベンチャー企業含め百花繚乱の時代に突入するのか。それとも燃料電池車が次世代の主役の座をつかみ、引き続き日本の自動車産業が世界をリードするのだろうか。

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