メダリストの昇格人事は“八百長”なのか? いや、そうではない考え方吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年03月05日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 五輪で活躍するような選手たちは、おそらく上記(1)の成績は高くないだろう。大会や合宿に参加したりすれば、おのずと会社での時間が奪われる。ほかの社員との間で成績の差が出るのは避けられない。

 仮に大会や選手権で何の実績も残すことができないようだと、単なる“落ちこぼれ”になってしまう。会社側からすると、こういった人には「辞めてほしい」と思うに違いない。以前、社会人駅伝で活躍した長距離の選手を数人取材したが、そのいずれもが10年以内に辞めている。退職理由はさまざまだが、共通したものとして「体を故障して大会に出ることができず、会社に残れない雰囲気があった」と漏らしていた。

 スポーツの実績で入社をしても、生き残るのはそれなりに過酷なのだ。さすがに五輪の大舞台でメダルをとると、状況は一変する。たとえ前述の(1)の実績が低くとも、(2)の「協調性」「責任感」「規律」「リーダーシップ」などではかなり高い評価が付くだろう。そうなると、総合得点ではほかの社員を圧倒する。と考えると、決して今回のような昇格人事は八百長ではないことが分かる。

 会社員というのは日々の成績がいいだけでは、昇進ができないのだ。成績も大切だが、行動評価もまた大事である。前回、述べたように日々の服装も大切である(関連記事)。この10年間、成果主義の影響でこのあたりがあまり報じられなくなっているが、忘れてはいけないことだ。

 ただし、今回のような昇格人は、経営陣の言わば“天の声”――つまり「あの選手は五輪でメダルを取ったのだから、昇格させよう」という号令のもと、人事部が動いていると見るのが妥当だろう。それでも、それを突き詰めていくと、私には行動評価でほかの社員を圧倒したからこそ、2人の選手は昇格できたと見ている。

職場で生きるうえでのインフラ

 もう1つ、指摘しておきたい。五輪でメダルを取るような実績を残した社員は、「職場で生きるうえでのインフラ(基盤)」をすでにつくった、と見ることもできなくない。繰り返しになるが、この場合のインフラとは上司や周囲と良好な関係を作るための基盤を意味する。

 では、このインフラは上司に頭を下げていれば作れるものなのだろうか。私は、その考えは甘いと思う。取材をしていて思うことだが、インフラをつくるのはその社員の心であり、意識である。つまり、心の中で上司や周囲にリスペクト(敬意)の念がなく、「こんな会社は嫌だな」とか「こういう上司は嫌だ」と思っている限り、インフラを完成することは難しい。私が20代のときに、インフラをつくることができなかった理由はこのあたりにある。

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