トヨタの“ブレーキ問題”が、ここまで拡大したワケ相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年03月04日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 『フラグマン』執筆に当たっては、企業のイメージや広報戦略を練る専門家のアドバイスを仰いでいるが、「オリジナル電気」のエピソードに関しては、専門家が保有する「悪い見本リスト」からアイディアを授かった。

 専門家たちが持つリストの中には、こんな案件が含まれている。「私は寝ていないんだ」との不用意な社長発言が不買運動にまでつながった雪印集団食中毒事件での会見。あるいは、「あなたとは違うんです」と吐き捨てた福田康夫元首相の辞任会見などだ。消費者や世間の強い批判・非難を集めた会見の模様はビデオに記録され、専門家たちがこれらを分析し、アドバイスを求める顧客や企業に解説を加えるという具合なのだ。

 実は、トヨタについても、専門家の多くが雪印の食中毒事件や福田元首相のエピソードと同列にとらえ、新たに「悪い見本リスト」に加えられているのだ。なぜリスト入りしたのか。「初期対応につまずきき、傷口を拡大させる典型例」(コンサルタント筋)だからに他ならない。

“誰に謝るのか”の視点が欠如

 プリウスのブレーキの利きに対する疑念が急浮上した際のトヨタの対応を見てみよう。2月3日、国土交通相を訪ねた同社の佐々木眞一副社長は、詰め寄る記者団に対し、「特殊な走行状況での運転者のフィーリングの問題」との主旨の説明に終始した。翌日、マスコミ向け説明会に出席した横山裕行常務もハイブリッド車特有のブレーキシステムの詳細に触れたあと、「ブレーキを踏み増せばブレーキは利く」との説明を繰り返した。

 クルマ専門Webサイトや自動車評論家らのブログを読む限り、クルマの構造に詳しい専門家らは、一応説明に納得したようだった。が、大多数の記者、そして記者を介してトヨタの説明を聞いた消費者は納得していなかったのだ。プリウスに関しては、多数の苦情が寄せられていた。加えて、直接の因果関係は証明できなかったものの、実際にプリウスが絡んだ追突事故も発生していた。しかし、トヨタのとった対応は、「技術面での説明と役所との関係に主眼を置いたものに終始した」(大手紙記者)のだ。

 不具合対応で済ますか、はたまた大規模なリコールの措置を施すのか。この時点でトヨタは企業戦略上の岐路に立たされていたわけだが、「世界中のトヨタユーザーに不安を感じさせたことを真っ先に謝るという、基本中の基本がすっぽりと抜けていた」(先のコンサルタント筋)と言えよう。この後、豊田章男社長が謝罪会見に登場して頭を下げたが、「記者や消費者の不信感は払拭できず、企業の危機対応としては0点」(別のコンサルタント筋)と散々の評判だったのは言うまでもない。

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