トヨタの“ブレーキ問題”が、ここまで拡大したワケ相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年03月04日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者 宮沢賢一郎 誤認』(双葉文庫)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 日米や新興国市場でのリコール問題に揺れているトヨタ。世界的な大企業をめぐるネガティブなニュースがメディアをにぎわせているのはご存じの通り。部品の不具合や販売台数の先行きなどクルマに関する詳報は他稿に譲るとして、今回の時事日想は一連の問題がなぜここまで拡大したのかを考えてみたい。一番の原因は、トラブルの端緒でつまずいいたトヨタの広報対応のつたなさにあると筆者はみる。

悪い見本リスト

 本題に入る前に筆者が手がけた仕事の1つをご紹介させていただく。小学館の漫画誌『ビッグコミック・オリジナル増刊』にて、筆者は『フラグマン』(作画・中山昌亮)という作品の原作を担当している。

 イメージ戦略に長けた米国帰りの主人公が、街のトラブルを自身のスキルを使って解決に導くストーリーだ。2009年の同誌11月号で、筆者は『事故の現場』というタイトルで原作を書いた。概要は以下の通りだ。

 架空の大手電気メーカー、「オリジナル電気」製の電子レンジが次々に爆発。多数の怪我人が発生したため、同社は家電担当の部長が緊急会見を開く。家電部長は事故に関する自社製品の経過説明を延々と繰り返すが、会見場では「社長直々の謝罪はないのか」と記者の怒号が飛ぶ。同じころ、主人公の住む街でも、当該製品を売った小さな電気店の店主が対応に追われる。が、当事者であるオリジナル電気本社では、謝罪会見のリハーサルなど、依然として社内調整が続いていた……。

トヨタのプリウス

 筆者がこの素材をテーマに据えたのは、製品の不具合、食品の産地偽装、社員の起こした不祥事などで「オリジナル電気」と同じような謝罪会見が繰り返されていたからだ。言い換えれば、社内調整や業界内の利害を優先し、消費者や被害者に対して表向き頭を下げるのみの誠意のない会見が増えているからに他ならない。

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