家賃を下げるための“たったひとつの冴えたやりかた”(2/3 ページ)

» 2010年03月03日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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調達・購買による価格低減の余地は2割にすぎない

 一般的には、「価格の8割は必要なモノで決まり、その後の調達・購買による価格低減の余地は2割にすぎない」と言われています。しかもその2割のうち、大きな要素は交渉ではなく、「どのサプライヤと交渉するか」です。なぜなら、売価の主な決定要素は、サプライヤのコスト、競争環境、意思で、そのうちのコストと意思が、各サプライヤやそのビジネスモデルによって大きく異なるからです。

 例えば、どんなにあなたが交渉がうまくても、相手のサプライヤが日本人を使っている限り、途上国と同じコストで同じモノを提供するのは難しく、一方、Googleのように圧倒的な立場にある会社は、いくら提供コストが限りなく0に近くても、交渉に応じる気はさらさらない。かように、サプライヤにも事情があり、あなたの要請に応えたくても応えられない、余裕で応えられてもさらさら応える気がないなど、相手によって交渉の結果は大きく左右されます。

 加えて、オフィスや店舗は、企業の支出の中でもかなり特殊な部類に入ります。契約前はある程度、選択の余地がありますが、一度入ってしまうと、引越しや現状回復、引越しに関わる印刷物などの刷り直しなど、スィッチングコストが大きく、短期間でこれらの費用を回収できるくらい賃料が安いといったメリットがないと、なかなか切り替えができません。店舗の場合、これに、今までつちかった顧客のトラフィックを一気に失い、1から作り直すリスクが加わるため、なかなか見直しというわけにはいきません。貸主もその辺りの事情は見越していますので、賃料引き下げ交渉にはなかなか乗ってくれません。みなさんが「1度決めた事務所や店舗の家賃は下げられない」と考えるのは、あながち間違っていないのです。

 「家賃削減代行の会社はどうなんだ? 彼らは『交渉で価格を下げる』と言っているぞ」と思われたかもしれません。確かに賃料交渉、家賃削減代行会社の中には、交渉だけというものもあるかもしれませんが、弊社が付き合っている会社は、各社とも類似物件の賃料のデータベースを持ち、それをベースに担当物件の適正賃料を算出し、それをもとに交渉します。ですので、彼らは基本的には適正な価格までの家賃引き下げには対応しますが、それ以上の引き下げについてはたいていは引き受けません。それ以上は交渉で下がらないこと、ムダな作業になることが分かっているからです。

 交渉術や交渉学は「目的を達成するためにどうメッセージを伝えるか」「どう相手のメッセージに反応するか」というコミュニケーション論が中心です。そう考えると、賃料交渉、家賃削減代行会社のノウハウ、価値の源泉は、交渉というよりも適正賃料の算出にあります。彼らのやっていることは、交渉ではなく、調達で言うところの市場ベンチマークの収集やコストモデリングにあたります。地域別、物件タイプ別にどれだけ細かいメッシュで、どれだけ多くの賃料情報を低コストでリアルタイムに集められるかが、これらの会社による交渉の成果を左右します。

 こうして見ていくと、賃料交渉はやはり「手狭になって」などの理由で、現在のところから退去しても良いという時に行うのが最も効果的です。ただ、賃料相場は上下しており、現在も下げ基調です。また、当初の契約が適正賃料で行われている保証はありません。ですので、これまでに、適正賃料をもとにした交渉が行われていないのであれば、契約継続を前提としてもかなりの成果が出る場合があります。相手の貸主が、貴社が転居の覚悟があるのか、貴社が転居後、次の入居者がどれくらいの早さで決まるか、その時の賃料がどれくらいになっているかといった点についてどう考えているかが鍵になります。いずれにしても、家賃引き下げを打診するだけならば、貴社のリスクは低いので悪くない話です。

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