コストダウンを「解雇」で行ってはいけない(1/2 ページ)

» 2010年03月02日 08時00分 公開
[荒川大,Business Media 誠]
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著者プロフィール:荒川大(あらかわ・ひろし)

株式会社ENNA代表取締役。「人的リスクマネジメント」をキーワードとして、内部統制対応の人事コンサルティング、IT統制対応の人材派遣、メンタルヘルスのカウンセリングを提供している。


 解雇相談を受ける際、目的が人件費圧縮であれば、「解雇ではなく賃下げやITコスト削減などから行うように」とお願いしています。その背景は訴訟コストの削減や、労働基準監督署からの是正勧告の回避があります。

 最近相談される解雇による訴訟ですが、対応する労働組合や弁護士の方々によっては、予想以上に会社側が負けるケースが増えてきています。

 バブル崩壊前までは、多くの企業が「家族経営」のスタンスを標榜していましたが、現在は会社と従業員は雇用契約により対等な関係にシフトしてきています。

 解雇による訴訟が増えているのは、「会社のために、会社を辞められるか否か?」という考え方、「優しい気遣いができる社員が辞めてあげる」という考え方が変化しているためで、ある意味必然と考えられるものです。

 しかし、経営者や人事経験の長い方は、いまだに昭和の時代の「解雇」のあり方(従業員を解雇すればそれだけ利益が残るというリスク想定のない一方的な発想)にとらわれているかもしれません。

解雇予告と解雇権の濫用

 よくある大きな問題は、「1カ月前の解雇予告」と「解雇予告手当の支払い」を行ったことで、「解雇が有効になった」と考える経営者や人事が多いということです。実際は、労働基準監督署がその解雇を「解雇権の濫用」ではないと認定して初めて解雇は成立しますが、この点の認識にズレがあるようです。

 解雇が認められない場合、また1人労働組合や弁護士事務所に駆け込まれて交渉がこじれた場合などは、たいていは会社側の責任が問われ、数カ月分の賃金の支払いを認定されているようです。

 今問題なのは、この流れが正社員だけではなく、契約社員やパート・アルバイトにまで及んでいるということです。契約社員やパート・アルバイトの方が正社員と同様の仕事をしている場合は、特にリスクが高くなります(業務内容や勤続年数によって変化します)。

 解雇プロセスを理解している実務担当者がいない場合、安易な解雇は、解雇して得られる人件費相当の利益を相殺するくらいの負債を抱えるリスクもあるということを理解してください。

 「解雇権の濫用」の場合、解雇対象者が調停などに持ち込んだ場合は、その期間中の賃金は会社が支払わなければなりません。

 加えて、労働基準監督署がヒアリングを行いますが、サービス残業などの認定があれば、その解雇対象者だけではなく、全社員への支払いが義務付けられます。よって、解雇によって得られる利益以上のコストが発生することがあります。おまけに雇用調整に関する助成金や、社員教育に関する助成金の返還を求められることもあり、特に慎重な対応が求められます。

労働相談センターは公的2ちゃんねる状態

 例年、年末になると労働相談が強化されますが、あの相談窓口で確認されるのは解雇の実態ではなく「労働実態」なのです。

 ということは、サービス残業やハラスメントまで、幅広く確認がされますので、この時期に安易な解雇を実施するのは労働基準監督署や労働局に「踏み込んで下さい」とお願いしているようなものなのです。2ちゃんねるどころではない膨大な負のデータが蓄積されていることになります。

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