コラム
» 2010年02月17日 08時00分 UPDATE

出版&新聞ビジネスの明日を考える:リスクを取らない商売に繁栄なし――売り切り商法導入が書店に与える影響 (1/2)

小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ残った本の返品を受け付けない代わりに、書店の利幅を増やす書店への売り切りでの取引形態を導入する。返品自由でなくなると、買い手側にはデメリットばかりのようだが、本当は逆だと筆者は主張する。

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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 小学館や角川書店などの出版大手が、これまでの慣行であった書店で売れ残った本の返品を受け付けない代わりに書店の利幅を増やす、「書店への売り切りでの取引形態」を導入するとのことです(2009年2月13日日本経済新聞13面)。

 現在の書籍流通では返品自由な取引が主流のため、書店は実際に売れる量より多めに発注しがちで、業界全体で返品率が40%強にまで達しています。 市場で流通している40%の書籍が、ムダに作られ、ムダに書店に届けられ、ムダに書店から取次、出版社へ戻され、断裁される。何とムダに資源やエネルギーが使われていることか。

 返品自由な取引は、地球環境だけではなく、売り手企業(サプライヤ)の経営を確実に圧迫します。当然、サプライヤはこれらの返品本の製造、物流、回収、断裁コストを負わなければなりません。

 実は、書籍流通のように明確になっているわけではありませんが、日本ではさまざまな分野で過当競争でサプライヤの立場が弱すぎることから、小売業者からの返品が自由な分野が少なくありません。書籍以外のサプライヤからも「小売業者からの返品が自由なため、在庫管理の精度が上がらず困っている」という相談を受けたことがあります。そのサプライヤの業界は、競合が片手の範囲に収まる数しかないため、メーカーの寡占状態にあると思っていたので、非常に衝撃を受けました。

 返品が自由だと実売データを把握するのが遅れるため、正確な販売・製造・在庫計画を立てることができません。これらの計画の精度が悪いと、在庫を多めに持たざるを得ません。一方、計画が信頼できないと、売れ筋商品でも大胆に在庫を持つことができず、品切れが多くなってしまうという問題も、返品自由の業界に属するサプライヤは抱えています。

 返品自由は、買い手企業(小売業者)にとってメリットのようですが、必ずしもそうとは言えません。

 返品自由から生じるサプライヤのコスト負担は、当然、価格に転嫁されます。今回の小学館のケースでは、書店の仕入れ値を返品自由の場合の定価の78%から、売り切りにすることによって定価の65%へと大きく引き下げています。角川グループパブリッシングが導入したある書籍では、販売後に1冊50円の協力金を受け取れます。これらの原資には、売り切り取引の導入による流通コストの低減分があてられます。

 最近隆盛のPB(プライベートブランド)が、良質なものをより低価格で提供できる理由の1つに、この在庫リスク、販売数量下振れリスクがメーカー側ではなく、小売業者側にあることが挙げられます。

 買い手側が返品自由を止め、買取に移行する最大のメリットは「品揃えの改善」にあります。返品自由だと、とにかく商品を抱えておけば良いので、売れ筋の見極めや品揃えのあり方の調査に真剣になることができません。委託販売に頼った百貨店が衰退する一方、顧客と向き合い、リスクを取って商品開発を行うユニクロの台頭が、リスクを取って品揃えに向き合う大切さを示す好例でしょう。

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