地方自治体の支出は削減できるのか坂村宗彦の地方財政から格差を見る(1/3 ページ)

» 2010年02月17日 08時00分 公開
[坂村宗彦,Business Media 誠]

坂村宗彦(さかむら・むねひこ)

1965年生まれ。千葉大学大学院修了後、某大手シンクタンクで自治体の行革支援などを手がけている。


 第2回「東京で集めた税金は誰のモノか」では、「国と東京都は都の財源をめぐって見解が対立しているが、地方全体の歳出を抑制すべきという点では見解が一致するのではないか」と書きました。最終回となる第3回では、「これから地方財政の歳出を削ることが可能なのか」を考えてみます。

 →誰が夕張市の借金を返しているのか(第1回)

 →東京で集めた税金は誰のモノか(第2回)

無駄な公共事業は本当に多いのか

 結論を先に言ってしまうと、これは相当な困難を伴いますが、それをやらないなら後は増税しかありません。そして東京都内から徴収される税(国税を含む)で、今まで以上に地方財政を支えなければならないということになると思います。

 これまで削減の対象となってきたのは、「無駄な公共事業を含んでいる」と批判され続けてきた投資的経費です。これを中心に地方財政全体の歳出がどうなっているのかを見てみましょう。

 地方全体の歳出は、毎年国(総務省)が定める「地方財政計画」によって明らかにされています。ここでは、東京都を含む日本の全自治体の歳出見込みを算出しています。例えば、2007年度を見ると、地方全体の歳出は約83兆1000億円、そのうち人件費(給与関係経費)が22兆5000億円、一般行政経費が26兆2000億円、公共事業費を含む投資的経費が15兆2000億円などとなっています。

 2年前の2005年度の投資的経費(普通建設事業費とも呼ばれることもあります)は19兆5000億円で、それ以前の1990年代後半には30兆円という年もありました。ですから、公共事業などの事業費はかなり減っています。

 一方、借金の返済に当たる公債費は13兆1000億円でこれはここ数年あまり減っていません。公共事業が減れば、いずれ借金も減っていくはずですが、そうはならずに横ばいとなっている傾向が読みとれます。

地方財政計画(歳出、単位は億円、クリックで全体を表示、出典:総務省)

 これまで地方自治体は、「無駄な公共事業を乱発し、価値のない施設を多く作って借金をふくらませてきた。その借金の返済のために地方交付税を余分に渡すというのは、借金返済の押し付けであり、けしからん」と言われてきました。

 確かに地方自治体の借金である地方債の中には、その元利返済(償還)金の一部を地方税ではなく国からの地方交付税で返済できる、つまり各自治体に交付する地方交付税を計算する際に借金返済分をカウントしてくれるという制度があります(これを事業費補正と言って、この前の事業仕分けでは民主党の枝野幸男議員が問題にしていました)。「だから、地方は負担感なく無駄な事業が平気でできたのだ」という批判です。

 第1回で夕張市の話を書きました。以前、夕張市はリゾート施設を多数造りましたが、その原資となったのもこの制度です。15年〜20年前には確かにこういう無駄が全国に多数ありました。現在はどうでしょうか? ここ数年、地方自治体が新たなリゾート施設を作ったなどという話はまったく聞きません。あるのは後始末の話ばかりで、この原稿を書いている最中にも、長崎県佐世保市のハウステンボス再建の話がニュースになっています。

 少なくともここ数年は、以前の無駄な公共事業の後始末(借金の返済がまったくないわけではないので、負担は残りました)とそれに対する批判にこりて、誰が見ても無駄と思える公共事業は地方でほとんどなくなっているのです。そして15年〜20年前の借金は、今はほとんど返済が終わっています。

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