何もないところに欲を作り出す――「ブラウザ三国志」のビジネスモデル野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)

» 2010年02月09日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ブラウザ三国志におけるフック・リテンション・マネタイズ

 ブラウザ三国志の良さを、フック・リテンション・マネタイズの順にまとめてみよう。まず、フックとしての分かりやすさである。三国志というなじみのあるテーマもさることながら、領地が広がる様子や城内に建設される施設など目に見える成果があり、何をするゲームか想像がつきやすい。作物を育てる農園系アプリなどにも共通する分かりやすさである。

 次にリテンションであるが、進めていくうちに非常に奥深いゲームであることが分かる。分かりやすさだけでは、すぐに飽きがくる。ゲームは初心者にとって始めやすく、上級者にとっても楽しめるという、分かりやすさと奥行き感の両方が必要とされる。

 施設を建設する順序、陣地をどう広げていくか、武将のスキルアップ、誰と同盟を組むか、勝ち馬に乗るのか自分が天下を目指すのか……。このように考えるべきことが多いと、攻略や情報交換のためのWebサイトが登場したり、掲示板にスレッドが立ったりして、バーチャルコミュニティが活性化される。何でも親切に分かりやすいことが良いわけではない。適度に分からないことがあると、話題を投下することができる。このゲームが「ハマれるアプリ」と称されるのには、こうしたコミュニティ回りの良さも貢献している。

 最後のマネタイズ局面では、他ユーザーとの競争と協力が効いてくる。最初は、無料のまま1人でコツコツとプレイしていても結構楽しい。だが、大戦争になり、今まで築き上げた自分の城が攻められたらどうだろう。あるいは、同盟の仲間を助けるためにすぐに増兵が必要になった時、「何としても早く」と願うだろう。守りたいものができたとき、何もないところに「欲」が生まれるのだ。

 「欲」というと聞こえが悪いかもしれない。ただ、ゲームでマネタイズするからには、それと同時にユーザーの「納得」を引き出さなければならないと思う。「ここまで楽しんだのだから、このくらい払ってもよい」と思える気持ちも含めて、企業は提供しなければならない。

 そうした納得感を持ってもらうために、難易度や複雑性の設定、他人を必要とする程度、1日どのくらい遊んでほしいのか、そうしたことをすべて考慮にいれて、ゲームバランスを決めていく。

 「攻められても自分の城が壊滅することのない仕組みにしたり、4カ月ターンで新しいゲームになるなど、負けても挽回でき、後から始めた人も追いつけるゲームバランスを考えている」と石井氏は言う。ブラウザ三国志はゲーム運営ノウハウが生かされた、本格的なソーシャルゲームの登場という感がある。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活をおくる。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているふりをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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