“あいつは採用ミス”とレッテルを貼る上司こそ、おかしいのだ吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年02月05日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 面接試験でも、面接官の中には「くだらない質問をしている人がいる」と厳しい。例えば、学生が「はい」とか「いいえ」といった返事しか返せない問いをしている面接官もいるようだ。むしろ「これまでに感動したこと」「大切にしていること」など、その人の価値観や信条などが見えてくるような質問をするべきと説く。

 「大前提として、会社の理念を明確にしておくこと。そうでないと、受験生の価値観を聞くだけで終わってしまいます。双方の価値観のすり合わせをしていくことでマッチングをしないと、意味がないです」

 この理念経営はここ数年、よく唱えられるようになっている。これは私の考えだが、その背景には売り上げや利益の伸び悩みがあると思う。つまりは、社員の給与や賞与を上げたり、ポストを与えることができない。そのまま放置しておくと、組織の生産性が下がる。そこで、危機感を感じた経営者たちが理念を旗印に社員を結集しようとしているように私には見える。

 組織である以上、理念は大切だが、売り上げや利益、さらには賃金が伸び悩む原因をもっと深く分析することも避けては通れないだろう。理念経営を進めることで、こういう問題から逃げたり、ましてや覆い隠そうとするのは論外である。そして、これは小林氏も語っていたことだが、理念経営を現場に浸透させるのには時間がかかるということ。少なくとも3〜5年は必要だというが、会社の経営陣がそこまで真剣に考えているかどうか。このあたりも分岐点になるだろう。

管理職は部下を育てようとしているのか?

 一方、数多くの中小企業から労務相談を受ける社会保険労務士の中村氏は、こう切り出した。

 「採用ミスが起こることを前提に、労務管理の体制を整える必要があります。ところが、それが十分に認識されていない場合がありますね。例えば、面接官が“こいつがいい”というような直感で学生を判断していることがあるのです。採用は後々、トラブルを生む可能性がある以上、慎重に進めないといけないでしょう。面接官がそのあたりを本当の意味で心得ているのかどうか……。人事部も、面接官にはそのあたりを徹底させるべきです」

 そして、試験の内容にも踏み込む。

 「試験問題を見ると、ありきたりなものが多い。時間や物理的な制約があるので難しいかもしれませんが、私は小論文を書かせることを会社に勧めています。一定のテーマで文章を書くと、その人の常識、教養、生活態度、論理の構成力などが分かります。いい加減な試験を行い、後々のトラブルで苦しむことを考えるならば、入り口の採用試験のところでもっと時間をかけてよいのではないでしょうか」

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