実は、ほんの1年半前、先輩記者が授けてくれた教訓が生きる出来事があった。たまたま、とあるサービス業界の新興オーナー社長の動向を追っていたときのことだった。
社長の部下たちやOBたちと接触するうち、一代で株式公開するまでに企業を成長させた社長のウラの顔を垣間みることができた。株式上場で得た莫大な財産を土地投機に注ぎ込み、挙げ句マル暴系企業とトラブルを起こしていた事実もつかんだ。
同社長、そして彼がサービスを展開していた業界の歪んだ裏事情に関して告発記事を書く企画も進めていた。
あと1〜2カ月で当該社長に直当たり(直接取材)するという段で、筆者は訃報面を見て仰天した。同氏の死を告げる短い訃報記事が掲載されていたからだ。死因は「心不全」。ネタ元から情報をたぐると、社長の死因は自殺だった。業界内外のあつれきをものともしなかった強気社長として知られていたが、「マル暴系企業とのトラブルで心身ともに疲れ切っていた」(関係筋)というのが死の真相だった。
社長の死後、当該企業はライバル社にシェアを奪われ続け、生き馬の目を抜くような競争の激しいサービス業界で被買収候補として注目されている。
重ねて指摘しておくが、筆者は亡くなった方々、そしてご遺族を中傷するつもりは一切ない。ただ、企業の体裁として、世間に死の真相をさらしたくない複雑かつのっぴきならない事情があり、これが「心不全」という死因で処理されている事例があることを紹介したまでだ。
「心不全」をめぐる訃報記事の裏側を探るのは、若い記者にとっては取材スキルを伸ばす機会となる。また、一般企業でも、総務など葬儀に関係する部署に務める人にとっては業務に直結することになる。就業前の若い読者にとっては、社会のさまざまな側面を知る手掛かりとなる。訃報面に目を通すことをお勧めする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング