日本航空再生の青写真は描けるか――稲盛和夫新会長就任会見(ほぼ)完全収録(5/5 ページ)

» 2010年02月02日 03時59分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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JAL再建の任を引き受けた理由

――京セラとJALとでは業種も社風も違うと思いますが、どのようにすれば立ち直していけるとお考えですか?

稲盛 具体的にどうするかという案はまだ持っていません。ただ、事業経営の原点は「入るを図って出るを制す」、つまり収入を増やして費用を減らすということにあります。それしかありません。製造業でも、通信業でも企業経営する上での原点になったので、(JALでも)その1点で経営を見ていきたいです。もちろん航空運輸業について私はまったくの素人なので、大西社長ほか現場の方々のさまざまな指導を得つつ、その方々に経営のアドバイスをしながら進めていこうと思っています

――いわゆる“アメーバ経営”を取り入れられるのでしょうか?

稲盛 経営では損益計算がはっきりしていないといけません。できれば、損益計算書を毎日、毎週、毎月くらいのレンジで見て、「現在の経営は安定しているのか」「収益はあがっているのか」ということをチェックできるような経営をしていくことが絶対条件だと思います。

 JALについてはまだよく分かっていませんが、ちょっと見たところでは損益計算がグロスで(まとまって)出てくるような形になっています。まだ詳しくは分からないのですが、細かく分けたデータを幹部社員が共有し、どこをどう改善すれば収益があがるようになるのかといった検討も十分ではなさそうなので、そういう一般の経理の体質をしっかり作ろうと思っています。もし、アメーバ経営を導入するとすれば、その後だと思います。

 アメーバ経営とはプロフィットセンターとして機能するような小集団に分けて、それぞれが採算を見ていくという手法です。これを製造業(京セラ)でやってきて、通信業(KDDI)にも導入してきて、うまく機能しています。しかし、急に入れていくと失敗することもありますので、徐々に見ていきたいと思います。

――会長は日ごろから“敬天愛人”を掲げていたり、DDI創業の時には「私心なかりしか」と何度も自問されたり、また10年ほど前に出家されたりしましたが、そういう人生の中で今回、JALの再建にたずさわるということはどういう意味合いを持つのでしょうか?

稲盛 私はこの1月30日で78歳という高齢になりました。京セラでもKDDIでも役員ではなく、名称だけが名誉会長であったり、最高顧問であったりするだけです。そういう中で今から26年ほど前に作った京都賞という顕彰事業をやっている稲盛財団と、同じく26年前に作った日本の中小企業経営者に経営を教える盛和塾という運動をやってきました。稲盛財団と盛和塾の塾生に経営や人生について、さまざまな話をすることを楽しみにしており、「そう長くない後(あと)の人生を世のため、人のために尽くしていきたい」と実は考えていました。

 そういう中で突然、企業再生支援機構と政府から「JALが大変困窮しているので、企業経営をやってきたあなたの経験を生かして、再建に協力してくれないか」というお話がありました。かねてから私は「人生を生きていく中で最も大事なことは、世のため人のために貢献することだ」と思い、そのことを実行してきただけに、つい「ほろっ」として、「じゃあ、お手伝いしましょうか」と言ってしまったことからこうなってしまいました。

 ただし、先ほども言いましたように年も年なので、「給料は無給でお願いします。しかし、1週間に3〜4日くらいしか勤務できないと思いますので、それでよろしければ全力を挙げて、JALの再建の任に就かせていただきます」という条件を申し上げました。そのほかには本当に何もありません。

 あいさつの中でも言いましたが、「JALは日本経済の中でも非常に大きな地位を占めている」と思いますし、世界の中で日本を表す1つの大きな企業でもあります。これを再建するということは日本経済にとっても、日本に住む者としても大変重要だと思ったのです。私の力にあまる公職かもしれませんが、事の成否は別にして、誠心誠意、あらん限りの力を振り絞って頑張っていこうと思います。

――大西社長が稲盛会長に期待している役割はどのようなものですか?

大西 今日、組織長に向けてメッセージを出す場面でのことです。稲盛会長に続いて私がメッセージを出したのですが、組織長がみんないる前で「君の発言は首尾一貫していないね」というご指摘を受けました。普通であればその場ではなくて、控え室に戻ってからこういうご発言があるかあるのかなと思うのですが(笑)。しかし、私も「まさしくその通りだ」と思ったので、みんなの前で会長に「確かにそうです。すみません」という話をしました。

 会長は50年にわたって経営トップの場を張り続けておられる。そこには数限りない経験知があり、信念もお持ちで、その信念を貫くためにいろんな困難な場面があったと思うのですが、それぞれに対しておそらく深く考えられて、ある結論を見出されて、それを乗り越えてこられている。この経験は私にとってはまったくありがたい経験ですので、経営の悩みをどう解決してきたのかというような部分の知恵をぜひ授けていただきたいと思います。

 まだ数日しかお付き合いはありませんが、稲盛会長の言葉はひと言ひと言にぜい肉がなくて、非常にずばりと物事の核心をとらえていると感じました。“精神的支え”という言葉が妥当か分かりませんが、実行部隊としての我々に、「精神的にこっちへ向くべきだ」ということをご指示いただく部分に私としては非常に期待しています。

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