日本航空再生の青写真は描けるか――稲盛和夫新会長就任会見(ほぼ)完全収録(3/5 ページ)

» 2010年02月02日 03時59分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

どのように再建を進めていくのか

――発表された再生計画の骨子(参照リンク)の中で、売り上げを増やす一方、路線などは大幅に削減していくとしていることには、無理があるかと思うのですが、再生計画についての現在のお考えをお教えください。

稲盛 企業再生支援機構の方々とJALの現場の方々が一緒になって作られた計画なのですが、「多分に楽観的な点もあるのではないか」と思います。採算を合わせていこうとすると、どうしても売り上げを増やしていかなければならない一方、経費を下げなくてはいけないということで路線の削減案も出てきたのだと思います。その辺のところは今後、議論するのではないかと思いますが、精細に調べて計画を練り上げていきます。

大西 再生計画案についてはこれからまだまだ検討する余地があると思いますので、足元の需要などいろんな変化要素を見ながら、しっかりした再生計画を立てていきたいと思っています。

企業再生支援機構公式Webサイト

――JAL再生の青写真として、会長はどのような方向性の案をお持ちでしょうか?

稲盛 まだ着任したばかりで案がまとまっているわけではありませんが、顧客として見てきても、実際に来てみてもそう思ったのですが、JALは一言でいうと親方日の丸で官僚的な組織だったのではないかと思います。民間の航空会社としてビジネスを展開するという原点に返って、幹部を始めとした社員みんなが損益計算に関心を持つような方向にマインドを変えていきたいと思っています。「具体的にどうやって変えるのか」については、今後考えていきます。

――これから路線の削減に取り組んでいかれると思いますが、採算を重視して選ぶという一方、公共インフラとして残すべきところは残していくという判断もあると思います。公共性と採算性のバランスについてどうお考えですか?

稲盛 大変難しいご質問だと思います。採算が合わなくても、公共性の視点から運航しないといけないという路線もあるだろうと思いますが、これはやはり経営の体質が許す範囲内においてのことだと思います。ただ、体力の許す限りはそういう公共的なものも重視しないといけないと思います。単に採算という一点張りだけでは、航空会社の運営はできないだろうと思っています。

――コスト削減と安全運航をどのように天秤にかけていくのでしょうか?

稲盛 先ほども大西社長から、「航空会社の生命である安全については我々は十分意を払っていきます」というお話がありました。我々は安全は一番大事だと考えており、大西新社長は整備畑の出身でもありますので、安全運航についても相当な関心を持ってやってくれるでしょう。事業の採算という視点から安全を犠牲にすることは絶対許されないと思っています。しかし、「安全に力を入れたので赤字になりました」とはいかないので、安全に支障のない範囲でムダを徹底的に省いていきます。

――パイロットの高額な給料の引き下げや、8つある労働組合など、京セラの労務管理とは違ったことも求められてくると思いますが、どのように対峙(たいじ)されていくのでしょうか?

稲盛 まだ組合の方々にはお目にかかっていません。また、「パイロットの方々の給料が高い」という話は聞いていますが、詳しいことは聞いていません。

 しかし、物事の交渉というのは、人間の誠意ということに尽きると思います。確かにおっしゃるように京セラの労働組合とはまったく違うのかもしれません。しかし、同じJALという船の乗組員として乗っているわけですから、その船が沈んでしまうとみんな不幸になっていくわけです。だから、同じ船に身を置く者として、誠心誠意話をしていって分かってもらうしかないだろうと思います。ただ誠実に厳しい現実を見てもらい、それに対して協力をお願いする以外に方法はないだろう、そのほかに策はないと思っています

――京セラで人員削減は今までなかったと思うのですが、これは避けられないのでしょうか? そして人員削減を行わざるをえないということになれば、どのようにされるのでしょうか?

稲盛 京セラを経営してきた50年の歴史の中でも、KDDIを経営してきた27年の歴史の中でも社員の首切りをしたことは1回もないので、そういう点では私も戸惑っています。企業再生支援機構とJALで事業再生計画を立てる中で、「やはり人員が多すぎる。このくらいの人員を削減しよう」という案が出てきたのだろうと思うのですが、私もその辺の詳しい状況はよく分かっていません。先ほども言いましたように、事業再生計画については今後さらに詳細に詰めて検討していこうと思います。

 確かに2010年度3月期決算で2000億円を超える赤字が出るような状況というのは尋常な状態ではないので、「当然、人員削減をせざるをえない」と見ておられるんだと思います。JALを再生していくために人員削減が避けて通れないことだとするならば、なるべく少なくすることを考えながらと思いますが、本当に悲しいことですが、厳しい状況を全社員に訴えて、協力してもらう以外にないだろうと思います。

 (人員削減の問題については)会長に就任した時から私の胸を大きく締め付けています。私は中学1年生まで戦争があった古い人間です。戦時中の映画で、日本の双発爆撃機が片方のエンジンをやられて、日本まで戻っていく中、燃料が持たないから重量を減らさないといけないということで、貴重なものもすべて洋上に捨てて、仲間も落としながらやっと帰島するというものを見て、本当に涙をのみました。残る社員も悲しいし、去っていく社員も悲しい限りだと思います。「何としてもJALを救っていこう」という気持ちで、そういう悲しい状況を乗り越えていかないといけないと思っています。

――大西社長はあいさつの中で「半官半民からの脱却」「社内の意識改革」とおっしゃいましたが、JALでは民営化以来どの経営者も同じようなことをおっしゃっていたと思います。なぜこれまで実現できなかったのでしょうか?

大西 これは言いわけになるかもしれませんが、我々が変えていこうとしてきた部分はそれなりに変わってきているとは思います。しかし、従来の経営者が毎回毎回そういうことを言ったじゃないかという部分については謙虚に反省して、大きくかじを切るということをやらないといけないと思っています。

 これはJALが与えられた最後のチャンスだと思います。そういう意識を持って変えていくことが大事だと思います。そういうことを社員にも分かってもらいながら、経営陣からもそういうコミュニケーションをしていく。そこの状況が分かって、我々が言っている言葉が丁寧にちゃんと伝われば変わっていくと思っています。

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