新聞社や出版社で働く人は、なぜ“原理主義者”が多いのか上杉隆×小林弘人「ここまでしゃべっていいですか」(7)(2/3 ページ)

» 2010年01月29日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
ジャーナリストの上杉隆氏

上杉 新聞社は本当に古い考えを持っている。いわゆる職人気質で、「オレさえ分かればいいんだ」[説明はいらないんだ……分かってくれない人がいてもいいんだ」といった感覚ですよね。

 職人気質はいいんですが、ニュースを伝える側としては失格。あるお方は『ニュースの職人――「真実」をどう伝えるか』という本を出していますが、この感覚もどうかと思う。完全に時代遅れであるし、メディアで働きながらメディア環境の変化を感じていないという気がする。

小林 雑誌もよく似ていて、職人気質の人が多い。尊敬すべき人は多いのですが、ただ長く働いているというだけで、低いスキルの人が気質だけ職人並の場合は救いようがない……。

上杉 分かるなあ……。編集者にも「オレの担当に手を出すな」「素人は口を出すな」といった感じの人が多いから。

小林 新聞社もそうですが、出版社の場合、編集者出身が経営者になるケースが多い。だから経営がどんぶり勘定だったりする。まあ、人のこと言えませんが(笑)、一応、数字については分権したり、社外の第三者機関によるチェックを受けるなどの努力をしています。上場基準並の監査基準で数字を見直すことで、メディア業界独自の体質が新たに顕在化するはず。

バブル期のままの高コスト社長

上杉 ニューヨーク・タイムズの同僚にシェリル・ウーダンというピューリッツアー賞を受賞した女性記者がいます。北京支局時代に『新中国人』という本を書いたりして有名ですが、彼女はニューヨーク・タイムズの本社に戻ったとき、「経営に入りたい」と言いました。子育てしなければならなかったなど、さまざまな理由があったようですが、海外で働くことが難しくなったようです。

 しかし、同じ会社でどんなに優秀でも記者から経営に入ることはできない。記者のトップは編集局長か編集主幹。編集と経営は別の職業だという認識が徹底しているのです。そこで彼女の取った選択肢はジャーナリストとしてのキャリアを捨てること。次にMBAを取得するために大学院で学び、改めてニューヨーク・タイムズの入社試験を受けたんです。

小林 すごい方ですね。

上杉 私も「彼女はすごいなあ……」と思っていたのですが、米国では当たり前のことだった。ジャーナリストと経営は全く違うもの。プロ野球選手が引退し、サッカーの監督が務まるはずがない――。彼らはそんな感覚。全く違うことをするのに「なぜキャリアがつながってくるんだ」という考え。

 しかし朝日新聞など、主要メディアの社長はいずれも記者出身。そのことを海外メディアの人に話したところ、「日本のメディアはどうなっているんだ?」「彼らは経営センスがあるのか?」などと逆質問された。「日本のメディアは記者がそのまま社長になることがある」と説明しても、彼らは理解してくれませんでした。

小林 雑誌メディアの場合、多くの送り手の頭には“良いコンテンツをつくるにはお金がかかる”といった信念というか、言い訳があります。じゃあ、お金さえかければお前いらないじゃん、みたいな(笑)。だから、そういうことを言っている人は経営者には向いていないし、本当に優秀なのか疑ってしまう。感覚だけはバブル期のままの高コスト社長がいたりしますよね。

上杉 そういう高コスト社長の頭の中にはインターネットとか、ないんでしょうね。

小林 ないでしょうね。あったとしても、インターネットの負の面ばかり見ようとしていますから。

上杉 テレビによく出てくる有名な人でも「いまだにペンで書かないと、温もりが伝わらない」と言っていたりする。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.