“コシヒカリ”から“みどり豊”へ、農業をやりたくなるお米郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2010年01月28日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotobike


 「世界のどこに行っても、コシヒカリは持っていきます」

 1月19日、俳優の渡辺謙さんが“日本人に勇気と元気を与えた活動をした人・団体”に贈られる「安吾賞」の授賞式でこう語った。安吾賞は作家坂口安吾の生誕の地、新潟市が制定したもの。新潟市は名高い魚沼産コシヒカリのお膝元、渡辺さんは「お米は活力源」と言い、世界のどこの撮影でもコシヒカリを持参するという。

 だが、そんな時代はいつまでも続かないだろう。コシヒカリはすでに地盤沈下しているのだ。作付シェアの4割弱を占めるコシヒカリは、温暖化の影響で作りにくくなり、相場も下落。シェアも数年前にピークを打ち、廃業者さえ出ている。「作ればもうかる」「一番おいしい」、こんなコシヒカリ信仰が崩れつつある。

 こう話してくれたのは渡辺さんの会見の日にお会いした、有限会社フローラトゥエンティワンの坂嵜潮(さかざき・うしお)社長。彼は、「お米の新品種『みどり豊』で作り手の意識や産地を変え、日本を変えたい」とも語っている。

新品種『みどり豊』

 「コシヒカリより2週間以上晩生で、高温による品質低下の影響を受けにくい。収穫量も十分。わらの量が多いので、田に還元できる有機物量が多い」、とみどり豊のメリットを挙げる坂嵜さん。

 “2週間以上晩生”とはどんな意味か。近年の温暖化の影響で、籾(もみ)の登熟期(お米の実る時期で涼しい方がいい)が夏の高温期にかかるようになった。登熟期に高温が続くと、米粒が白く濁る乳白現象がおき、品質が劣化する。みどり豊を作付けする滋賀県でも、かつては近江米の一等比率が90%だったが、今は70%まで低下。登熟期が2週間遅くなることで暑さを避け、品質の良い米を安定的に作れるようになるのだ。

炊きたてのみどり豊

 環境適応性、難穂発芽性などコシヒカリの良いところを受け継ぎ、収量も2割以上多い。新潟県を含む関東以西、本州一帯で作付けが可能。味はどうか? 2009年10月、坂嵜さんのみどり豊にかける思いに感じた「はなどんやアソシエ」(株式会社自由が丘フラワーズ)の協力を得て、食味評価用の試験栽培米が無料配布された。

 私と相棒cherryさんも1つずつ入手。ツヤがあり、モチモチしていていて、おにぎりにするとおいしいのだ。坂嵜さんの活動を知る、法政大学経営学部の小川孔輔教授は、坂嵜氏に送ったメールで「実際に食味テストをしてみたが、味に問題はない。それどころが、冷えてもおいしいお米である」と書いていた。

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