これら「経験」「薫陶」「研修」を、それぞれ無関係なバラバラのものととらえてはいけません。選択肢があると私たちはつい「何が一番大事か」という思考や議論になりがちで、そのように考えると、経験不足のまま薫陶や研修を受けているだけで成長するわけはありませんから、「経験が一番大事」と結論付けてしまうのは当たり前の話です。その結果、それらを軽視するようになっている会社は多いのですが、これらは比較して順位付けられるものではなく3点セットです。モレなく全部が大事で、かつ各々が関連付けられると考えるべきでしょう。
例えば、誰しも仕事で色々な経験をするわけですが、その経験から「こういう仕組みになっているのではないか」「こうすればうまくいくのではないのか」「最も大切なことはこれじゃないのか」といった結論をしっかりと持てるかどうかは人によります。つまり、経験を根拠に法則・原則を結論として導くロジカルシンキングができなければ、経験がただの反復に終わってしまいます。経験を成長に変えるためには、薫陶や研修によって経験を論理的に振り返らせなければなりません。
逆に、上司や研修からさまざまな考え方や理論やフレームを学ぶわけですが、そこから「現実にはこのように使える」「この場面で使ってみよう」「こう修正して利用できるかも」といったアイデアや策を考えられるかどうかは人によります。つまり、法則・原則を結論として具体策にブレークダウンしていくロジカルシンキングができなければ、それは「使えない学び」として放置されることになります。学びを成長に変えるためには、経験によって学びを論理的に実感させなければなりません。
「経験と薫陶と研修のどれが一番大事か」ではなくセット。人材育成とは「経験という根拠をたくさん与え、それらに共通する原理原則もしくはそれらから導かれる大切な考え方を、薫陶や研修を通して結論付けさせること」、または「薫陶や研修において原理原則もしくは大切な考え方を結論的に習得させ、たくさんの経験をその証拠として実感させていくこと」と言えるでしょう。人事部門を含め、人材育成を考える際にはこの3点をセットで考えねばなりません。(川口雅裕)
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