「大きな政府と小さな政府」――ニホンはどちらに進んでいくのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年01月25日 08時16分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 日本では92兆円という過去最大の一般予算案が審議されている。そして来年度に入ったら、おそらくすぐにでも補正予算が必要になるだろう。それだけではない。「コンクリートから人へ」を標榜(ひょうぼう)する民主党政権であるから(関連記事)、子ども手当を皮切りにいよいよ大きな政府にひた走ることになるのだろうか。そうなれば消費税率の引き上げ(もちろん税体系の見直しも必要だが)は必至ということになる。

大きな政府と小さな政府

 今年の夏に行われる、参院選の争点の1つは「大きな政府と小さな政府」ということになるはずだ(自民党がきちんとした政策論争を挑めるぐらいに気力が充実していればの話だが)。景気刺激のためにさらに財政出動が必要かどうかはともかく、少子高齢化社会になれば、どう抑え込んでも医療費や年金に関わる財政支出は増えるからである。まして民主党は医療・介護分野で45兆円の市場を創設し、280万人の雇用を生み出すという成長戦略を掲げた。しかし45兆円を誰が支払うのか。すべてが税金というわけではないだろうが、財政からの支出がなければそんなに大きな市場は生み出せない(健保組合の財政は厳しいし、窓口負担がこれ以上増えるのは消費者としては耐えられまい)。

 もっともこの問題で頭が痛いのは日本だけではない。現在、米国が大きな政府か小さな政府かをめぐって、大論争の最中にある。民主党のオバマ大統領にとって最大のショックは、マサチューセッツ州の連邦上院議員選敗北したことだ。マサチューセッツはもともとリベラル色の非常に強いところで、昨年死去したエドワード・ケネディ議員が31年間も議席を確保してきた。ところがケネディ議員死去に伴う補欠選挙でなんと共和党のスコット・ブラウンが議席を奪ったのである。

 敗北の原因はいくつかある。まずオバマ大統領の「公約」にもかかわらず、雇用情勢がいっこうに好転しないこと。景気も決して安定して回復しているとはいえないこと。財政赤字も膨張し、やがてはそのツケが国民に回ってくると思われること。議会で審議中の医療保険も政府の負担が増えることになりそうなこと、などである。こうしたことからオバマ大統領の支持率は40%台にまで落ち、その結果、民主党の金城湯池(きんじょうとうち:堅固で、他から侵害されにくい勢力範囲)であったマサチューセッツ州まで失うことになった。

 1773年にマサチューセッツ州ボストンで、有名なボストン茶会事件(Boston Tea Party)が起きている。ボストン港に停泊中の英国船に侵入したボストン市民が東インド会社の紅茶の積み荷を海に投げ込んだ事件である。もともとは植民地に対する課税をめぐって英本国と植民地側の反目があったが、この茶会事件を契機にさらに対立が激しくなり、ついにはアメリカ独立戦争(1775〜1783年)へとつながっていく。いま米国では全国的に「大きな政府」反対運動が繰り広げられているが、反対する人々を「ティーパーティ・デモ隊」と呼んでいるという。

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