常識の斜め上をいくZORKI-4の操作-コデラ的-Slow-Life-

» 2010年01月20日 08時00分 公開
[小寺信良,Business Media 誠]

 ジャンク扱いで入手したZORKI(ゾルキー)-4。購入した時はフィルム巻き上げレバーが空回りしている状態で、シャッターチャージができなかった。少なくとも巻き上げができなければ、状態が分からない。ZORKI-4はこのレバーのほかにも、とにかく回すところだらけという構造である。とりあえず仕組みを把握するために、あちこち回りそうなところを回していくことにした。

 フィルムカウンターは、単に円盤がぐるぐる回るだけである。巻き上げノブを1回転するたびに、1メモリ分進むという構造らしい。

 反対側の、ファインダー部にめり込んだようなノブは、フィルムの巻き戻しである。そのままではファインダー部と高さが同じで回せないのだが、引っ張り上げると回せるようになる。その外側のレバー状のパーツは、ファインダーの視度調整だ。このあたりの作りは、原型であるLeica(ライカ) IIIとよく似ている。

視度調節まで一体化した巻き戻しノブ

 裏ブタは、底部の2つのロックを回して外すスタイル。フィルムの巻き上げ側は、別途専用の巻き取りスプール※が必要である。旧ドイツのカメラには、こういう機構のものが多い。

※巻き取りスプール……フィルムを巻き取るための軸。
フィルムの巻き上げには専用スプールが必要

 このような構造になっているのは、おそらくフィルム1本分を撮りきる前に、撮影した部分だけを暗室で切り取って現像するためだろう。同様の機構を持つEXAKTA(エキザクタ)などは、わざわざカメラ内部にフィルムをカットするためのカッターまで付いている。つまり交換用のスプールがたくさんあって、こまめに取り替えていたのだろう。

 ただ今となっては、そのカメラ専用スプールがないと全然撮影できないので、わざわざ別パーツにするメリットがなくなってしまっている。

ようやく理解できたシャッター操作

 肝心のシャッターボタンまわりは、外周のリング部分が回せるようになっている。回すとリングが沈み、シャッターが頭を出す。普通の感覚だと、このシャッターが飛び出した状態が撮影可能状態だと判断するところだが、何とこれがそもそも間違っていた。

 リングが沈んだ状態は、リワインドモードだったのである。だから巻き上げリングが空回りしていたわけだ。

リングが沈むと、リワインドモード
リングを上げると撮影状態、ただしシャッターはロックされている
さらにシャッターボタン自身も回転させて、ようやくロックが外れる

 通常の撮影状態は、リングが上がっているのが正解であった。さらに、実はシャッターボタン自体も回転するようになっていて、シャッターのロック機構を持っているというのが分かった。つまり、シャッター周りの二重になった回転機構の組み合わせがちゃんと合わないと、シャッターが降りないという構造だったのである。

 シャッタースピードの設定は、フィルム巻き上げ後に引っ張り上げてダイヤルを回す方式。文字盤は普通に印刷されているだけなので、経年変化ですり切れてしまっているのが残念だ。このあたりがいかにも、「役に立ちさえすればよい」という共産圏らしさを感じさせる。

 ルックスは古くさいが、高速1/1000秒から1秒のスローシャッターまで対応する高機能である。ただし1/30秒だけがなぜか飛び石のように離れていて、1/1000秒→Bへとグルグル回していって、ようやく1/30秒にたどり着くという仕様だ。たぶん1/30秒と、1/15秒から先とはスローガバナー※の機構が違うからなのだろうとは思うが、そのあたり、順番に並ぶように何とかする努力を一切しないところが、一周回ってかっこいい。

※スローガバナー……機械式シャッターでスローシャッターを制御する機構のこと。複数のギアとバネの組み合わせで回転の抵抗を利用して、シャッターが閉じる時間を調整する。
謎は多いが意外に高機能なシャッター設計

 シャッターダイヤルの手前のところに黒い点が打ってあるのはなんのマーカーだろうかとずっと謎だったのだが、よく見るとシャッターダイヤルの外周も、実はダイヤルになっていた。

 フラッシュ接点のXとMの切り替えだが、接点の位置が真逆の180度を超えて、200度近い角度のポジションにある。普通はそういう配置だと、角度的に近い方にダイヤルを回したほうが良さそうなものだが、そっち側には回らないのである。なぜわざわざそんなに遠回りする設計になっているのか謎だ。

 合理的な部分は極端に割り切り、不条理な部分はまったく改善もされない。シリアルナンバーから予想するに1970年の製造だが、当時日本を始め世界は、すでに一眼レフ時代に向かって走り出していた。資本主義社会の感性では理解できない、“頑張りどころの違い”みたいなものが凝縮されたカメラである。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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