誰が夕張市の借金を返しているのか新連載・坂村宗彦の地方財政から格差を見る(2/3 ページ)

» 2010年01月19日 08時00分 公開
[坂村宗彦,Business Media 誠]

誰が夕張市の借金を返しているのか

 しかし、ここまでのお話は、ある部分を意図的に外して説明しています。それは、夕張市の借金を返している返済原資は一体どこにあるのか、つまり「『夕張市の収入全体』の中で、『夕張市民と夕張市内の企業などが支払っている税金等の収入』はどれくらいの割合なのか」ということです。この部分こそが、普段地方財政に縁がない人の感覚とずれが大きいところのように思うのです。

 「市町村財政比較分析表 北海道夕張市 平成19年度(2007年度)普通会計決算」を見ると、「夕張市の収入全体」に占める「夕張市民と夕張市内の企業などが支払っている税金等の収入」の割合は約24%です(財政力指数という数値を用いています)。地元の収入が24%ということは、残り76%の収入は「どこか」からもらっているということになります。

 さらに、地元収入が24%しかないということは、収入を増やすとか支出を切り詰めるといったことが、借金を返済するためにそれほど大きな効き目があるとは言えないということが分かります。こうした取り組みはいわば“見せしめ”のようなもので、「額は小さくても自助努力の姿を必死に見せている」と言った方が実情に近いと思います。

 肝心なのは、残りの76%が「どこか」です。これを正確に言うのは、実は結構難しいです。分かりやすく言えばそれは「国」ということになるのですが、これは正確な表現と言えないところがあります。もう少し正しく言うと、「国が管理している、地方自治体のための共同の財源」となります。

 つまり、すべての地方自治体のための財布が1つあるということで、これを「地方交付税特別会計」と言っています。夕張市はここからもらっているお金(地方交付税)が、年におよそ30億円あります。さらに、将来このお財布から返済されることを当て込んで(かつ国が認めた)夕張市が行った借金が、年におよそ2億円以上あります。これらの収入がなければ夕張市は財政運営ができません。それは夕張市に限ったことではなく、全国のほとんどの地方自治体について言えることです。

 みなさんの給与明細を確認していただくと、そこにはおそらく「所得税」や「地方税(あるいは住民税)」と書いてあるはずです。所得税は国税、地方税は自分が居住している自治体に納められる税です。私たちは消費税も払っていますが、これは8割が国税で、残り2割が地方税です。

 では、「地方自治体共同の財布」に振り込まれるお金はどこから支払われるのか? 実は国税の一定割合は、「地方自治体共同の財布」である地方交付税特別会計に自動的に充当されることになっています。つまり、「夕張市なんて関係ない」と思っている私たちも、所得税や消費税(人によっては相続税)を払うことによって、そして企業も法人税や消費税を払うことによって、わずかずつながら夕張市の借金返済に協力しているのです。そういう感覚がある人は少ないのではないではないでしょうか。

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