開発援助はどっちがいいの? ダムそれとも裸電球ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年01月18日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

投資するか、消費するか

 家庭に明かりをともす、ということを開発援助の目的にするなら、ダムや発電所を建設するのではなく、充電式裸電球を配るというアプローチもあると思います。この2つのアプローチを比較すると、前者は「インフラ整備」という開発経済学の王道アプローチ、後者は「スモール but クイックwin」のアプローチとなります。

 インドの人口は12億人ほどですが、1世帯5人家族と仮定すると2.4億世帯。その45%に電気がないということは、1億世帯強が電気がないと言えます。これらの世帯すべてに32ドルの充電式裸電球システムを配ると、32億ドル(1ドル100円で3200億円)かかります。すごい額ですよね。1つ1つは安くても、たかだか「電球1個が家につく」というだけで全体では3200億円かかるんです。しかも、電球も太陽光発電パネルも寿命があるので、いつかは買い換えが必要です。つまりたった1つの裸電球のために、一定期間ごとに3200億円が必要になるのです。

 一方、インフラ整備はどうでしょう。3200億円もあったら、ダムと発電所と配電システムがある程度整備できるでしょう。日本の八ツ場ダムの総事業費は4600億円と言われていますが、そのコストには「用地買収費」「立ち退き家庭への代替地、補償費」や工事の「人件費」が含まれています。インドの田舎ではそういった項目は格安でしょうから、3200億円あったら何カ所かでダムや発電所、送電施設などを一式整え、相当広い範囲に大量の電力を供給できるでしょう。

八ッ場ダム工事事務所(出典:国土交通省)

 さて、日本は2007年度に2200億円程度のODAをインドに供与しています。内容はやはり発電や運輸などの“インフラ開発”が中心です。しかし、この額があれば、ダムや発電施設を作らずに、かなりの家庭に充電式裸電球を配ることもできます。もし、あなたが日本のODA担当大臣だったら、どちらのアプローチを選びますか?

 開発経済学的にはインフラ投資をすべきなのでしょう。インフラを整えれば、工場も作られ、洗濯機や冷蔵庫などの家電に対する需要も生まれる。そこからまた新しい産業と収入源が生まれ、経済成長のサイクルが回り始めます。一方、裸電球の光は消費されて終わりです。「夕ご飯の後も明るい」からといって経済発展につながりはしません。すなわちこれは援助資金を「投資」するか、「消費」するかという選択なのでしょう。

 投資と消費という意味で一般化すると、極論ですがODAの数千億円で発電所を作るか、飢えている人に今日食べるご飯を配るか、という選択肢でもあります。消費は今日うれしい。投資は明るい将来につながるものの、うれしいと感じるまでには時間がかかる。インフラ整備に投資をするということは、「今、何人も餓死している村のそばで、未来のためにダムを造る選択肢」とも言えます。

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