岡本 しかし今回、問題にしたいのはその後の話です。今、申し上げたように日本に才能発見の場は世界中のどこの国よりもたくさんあるのかもしれません。しかし、アニメーションのディレクターにとって、次のステップがないんですね。より質を高めていくためにいろいろなことをやらないといけないのですが、そのステップに踏み出すためのプログラムやシステムがない。ここが日本のアニメーションの世界で一番問題なのではないかと思っています。
才能発見の次のシステムやプログラムに関して、私の造語なのですが“カタパルトプログラム”と名付けました。カタパルトというのは滑走路の意味なのですが、才能が発掘されて、その次に才能が飛び立っていくまでの間をつなぐプログラムということです。諸外国を見ると、意外にここは充実しているんですね。
カナダにはNFB(カナダ国立映画制作庁)という国立のアニメーションスタジオのようなものがあって、「HOT HOUSE Animation Program」というプロジェクトを行っています。ここでは毎年、若いアニメーションディレクター7〜8人が選抜され、12週間、寝食を共にしてNFDにいる一流のプロデューサーやエンジニア、クリエイティブメンターたちのサポートを受けて、作品を作り上げています。プロフェッショナルが手伝っているので相当クオリティの高い作品ができるのですが、それをさらにいろんなところでプロモーションします。
同じように英国でも「animate!」と呼ばれるカタパルトプログラムがあって、これは7人ほどが選ばれて、1年間をかけて作品を作って、英国アートカウンシルで展示したり、Channel 4で放送したりするというものです。
こういったカタパルトプログラムは世界中に数限りなくあるのですが、すごいのはデンマークの例です。デンマークはアニメーションの後発国だったのですが、デンマークフィルム協会の助成で「Open Workshop」という試みを始めました。ここでは全世界のアニメーション監督から作品企画を常時公募し、審査で採用が決まると、作品制作期間はスタジオや制作諸施設が利用できるほか、住居まで提供されるというものです。これによってデンマークは一躍、“アニメーションの国”という評判が浮上してきています。
振り返って日本の場合どうかというと、みなさんがご存じの通り、アニメーターから始まって、作画監督になって、演出になって、やっとアニメーション監督になっていくというキャリアパスがあるわけです。しかし、そうなると、監督になるまでに数十年の期間が必要になります。それだと、スピードアップしている現代では間に合わない。すぐに功成り名を遂げたい若手にとっては、そこまで待ちきれないという問題があります。
ただ、日本のプロダクションにもカタパルトプログラムのようなものがあって、ロボットという会社にある“CAGE”という部署がそうです。“鳥かご”という意味なのですが、加藤久仁生さん、坂井治さん、稲葉卓也さん、野村辰寿さんという4人の監督がアニメーションの自主制作を許されています。
この中の加藤久仁生さんが制作したのが、2009年3月にアカデミー短編アニメ賞を受賞した『つみきのいえ』です。私はこのコンテンツは「生まれるべくして生まれた」と思っています。CAGEのみなさんはまだ30代で、通常のプロダクションだと作画監督くらいなのですが、ここでは非常に自由に作品を作らせている。だから、『つみきのいえ』のような名作も生まれるし、「ななみちゃん」のように有名なコンテンツも生み出せる。こうやって意識してカタパルトプログラムを作っていくと、若い人の才能が必ず開花するという良い例だと思うのですが、日本のアニメーションのコンテンツを創出するために、こういったことを続けていければいいのではないかと思います。
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