「ふっかけた方が得」の“アンカリング効果”とは(2/2 ページ)

» 2010年01月15日 08時00分 公開
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突拍子もない数字でも影響を受ける

 興味深いのは、最初の質問で示された数字が突拍子もないものであったとしても、影響力を発揮するという点です。例えば次のような質問。

1.サンフランシスコの平均気温は「摂氏292度」よりも高いか、それとも低いか。

2.サンフランシスコの平均気温は何度くらいか?

 摂氏292度なんて、ありえない平均気温ですよね。もちろん、この質問を見せられた実験協力者も、サンフランシスコの平均気温を3ケタ(100度以上)とは予想せず、2ケタの数字を推測しました。それでもやはり、このありえない数字を示された人の方が、そうでない人よりも高い平均気温を回答したのだそうです。アンカリング効果は、これほどまでに人の判断を左右する力を持っているわけです。

「ふっかけた方が得」

 商売人たちは、行動経済学で検証されるずっと以前から、アンカリング効果の存在を経験を通じて分かっており、プライシング(価格設定)や価格交渉において活用してきています。端的に言えば、アンカリング効果を考慮するなら、売り手側が価格交渉を有利に進めたければ、「ふっかけた方が得」ということなのです。

 外国の個人商店では、しばしば値札がなく商店主との価格交渉で購入金額を決めますよね。この時、よほど善良な人でないかぎり、商店主が最初に提示する売値は、あきらかに「ふっかけ」の高過ぎる値段です。なぜなら、その数字が基準となって、利益幅の大きい高値で取引が決着する可能性が高くなるからです。ですから、買い手の立場からすると、よほど注意して商談しないとバカをみるかもしれないということでもあります。

 今、個人商店を例に挙げましたが、国際間の企業対企業の大型の商談でも、同様のふっかけがしばしばみられます。日本人はある意味正直すぎるため、不利な価格で契約に至るケースが多いようですね。信頼関係が既にできている相手は別として、価格交渉では、最初に提示された数字は、相当疑ってかかるべきでしょう。(松尾順)

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