ヒートテックを追え! フェニックスの挑戦それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年01月13日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年1月8日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 リーダーの戦い方は全方位戦略だ。強大な力であらゆるところ、あらゆる相手に戦いを展開する。それに対してチャレンジャーは「勝てるところを見つけて戦う」のが原則だ。リーダーに全面戦争を仕掛けて犬死にすることは絶対に避ける。そんな視点で冬のアンダーウエア市場を見ると、実に面白いチャレンジャーがいることが分かる。

 冬用のあったかアンダーウエアのリーダーは、間違いなくユニクロのヒートテックである。今年度の販売目標は何と5000万枚! しかも、消費者が「売って売って!」と列をなす。低価格でも、より薄くフィットするように、さらにより暖かく発熱するようにと毎年製品改良の努力を重ねた成果である。

 「冬のアンダーウェア、発熱するだけでいいの?」

 そんな、挑発的なキャッチコピーの車内広告を展開したのがフェニックス(Phenix)だ。スポーツメーカーである同社のロゴは、スキーウエアなどで見覚えがある方も多いかもしれない。その展開が、チャレンジャーの戦略としては実に見事なのだ。

 暖かいだけのアンダーウエアは、実は環境が整備された日本では使いにくい。活動のスタート時は激寒でも、動き始めると人間は発熱する。次はその熱をどのようにして制御するかが問題になってくる。

 寒波が押し寄せ始めた日本列島の朝、準備してあったユニクロのヒートテックや大手スーパーのあったかインナーの出番である。

 「ほら、パパ! これ、あったかいって評判だから着てって!」とあてがわれた夫たち。ところが、「電車の中じゃあちーよ! 会社で汗臭いよ、俺!」と不満をつのらせることになる。

 電車という密室で、しかも「暑い」という不満が満ち満ちる絶好のシチュエーションで、「フェニックス」「フェニックス」「フェニックス」と3回もカタカナですり込まれる。フォントも微妙に凝っていて、興味を惹く。AIDMAのAttention・Interestバッチリだ。

 興味(Interest)を維持したまま、汗だくのまま、「フェニックスのアンダーなら、快適かもしれない」と、欲求(Desire)が高まる。そして Webサイトを見てみれば何とも親切に、どうやったらアンダーのページに行けるかまで説明がしてある。PCが苦手なパパもママも安心だ。

 そしてサイトをよく見れば、結構本気のスポーツメーカーだったりして、機能もなんかすごそうだ、とちょっとびっくり。

 しかし、価格はセール時のヒートテックが4枚以上買える値段……。「おぉぉ。無理かもしれん。けど、ボーナス少ないけど出たし、いつもならコート買ってもらうところだけど、それは我慢して……せめてこれを買ってくれ、嫁!」。Memoryをすっ飛ばして、Action、購入申請がなされる。そんな展開が多くの家庭で繰り広げられるのではないだろうか。

 じ・つ・は、ほかのスポーツウエアメーカーも、この「保温/放熱/汗発散/抗菌防臭」を実現しているところは多い。いわば「高価格帯のウエアメーカーでは当たり前の機能」でもある。しかし、電車に乗っている人のほとんどは、パタゴニアのベースレイヤ―を、ワコールのCW-Xを、アンダーアーマーを知っている訳ではない。そう、その辺りのブランドを熟知している人は、今回のフェニックスのターゲットではないのだ。

 電車という限定空間で不満を募らせる人が、スポーツに詳しい知人から「スポーツブランド●●のアンダーは熱を発散して、快適温度を保ってくれるから快適だよ。ヒートテックよりも高いけど、高いだけの事はあるよ」という競合の情報をすり込まれる前に、確実に狙い打ちしているのだ。

 チャレンジャーの商品は、「あれ? この商品は有名な●●と似てる」と思っても、微妙に差別化して、新たなターゲットを狙っていたり、先行商品から少しずつパイを削り取る戦略だったりすることが多い。

 そんな観点で見ると、もう一つ面白い商品がある。

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