なぜ私たちは“仮想”アイテムを買うのか?――ソーシャルゲームのビジネスモデル新連載・野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(4/4 ページ)

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4       

リテンションとしてのコミュニティ

 ソーシャルゲームの継続利用をうながすコミュニティ効果は、少なくとも3つあると考えられる。

 よく知られた効果は「ネットワーク外部性」である。「ネットワーク規模がサイトの価値を決める」というこの理論では、「利用者数を増やすことでゲームの魅力を高めることができる」としている。多くのユーザーがプレイしているという事実によって、既存顧客を引き止めることができるのだ。

 一方、コミュニティの質的な効果に着目したのが、他ユーザーとの共同プレイである。サンシャイン牧場で友人の農作物に虫を付けるといったアクション、あるいはランキング競争など、他人とのやりとりを埋め込むことでゲームが奥深くなるという効果である。

 そもそもゲームは1人でするよりも、他人と遊んだ方が面白い。カードゲームやテーブルゲームなど、多くの古典的なゲームは他人と遊ぶものであった。すると、他人と遊ぶオンラインゲームやソーシャルゲームのスタイルは、現代のトレンドという特別な風潮ではなく、むしろ普遍的な人間行動であると言えるだろう。

 3つ目の効果は、人間関係の維持である。ゲーム自体には飽きているが、そこで知り合った友達と接点をもち続けるために続ける。こういうプレイ行動はMMOでよく見られた。その結果、1年超にわたって1つのゲームをプレイし続けるという高い定着性が実現した。

 ソーシャルゲームの場合に問題となるのが、ゲームとコミュニティが分化している点である。ゲームを辞めてしまっても、フレンドリストはSNS内に残っている。人間関係の維持にかけるモチベーションは、その人間関係が限定的でもろいほど、かえって強くなる。リアルで接点があるなど、ほかに抜け道があると「本気」になれないのである。

マネタイズとしてのコミュニティ

 マネタイズの局面でみられるコミュニティ効果の例として、アイテム課金とフレンド課金の2種類が挙げられるだろう。

 現在よく用いられているアイテム課金については、アバターの服であれ家具であれ、「リアルマネーを支払うだけの価値があるものだ」という信念が、ユーザー間で形成されなければならない。仮想アイテムに意味を与えるのがコミュニティである。「アバターや家を飾りたい」と思うのは、見せる相手がいるからである。他人の目があるからこそ、自己表現という欲求や競争心が生まれ、アイテム消費につながる。希少性のあるアイテムはさらに売れるが、希少性もほかのユーザーとの比較から生まれる概念なので、まずはコミュニティが形成されなければ、売り物になる仮想アイテムは生まれない。

 コミュニティに直接的に課金をする方法としては、フレンド課金が考えられるだろう。例えば、フレンドリストを増強することに課金する方法があるだろう。お見合いサイトなどでは、利用者同士の交流そのものに課金をするケースもある。しかしこのような方法は、ゲームではほとんど普及していない。というのも、友人関係というプライベートなことを課金対象とすることについて、利用者の理解が得にくいからである。そこで、仮想アイテムというクッションをおいて課金をする現在のスタイルが支配的になっている。

 次回は、フック・リテンション・マネタイズ理論を使って、ソーシャルゲームのビジネスモデルを図解したい。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活をおくる。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているふりをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.