なぜ私たちは“仮想”アイテムを買うのか?――ソーシャルゲームのビジネスモデル新連載・野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/4 ページ)

» 2010年01月08日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で友人などと一緒に簡単なゲームをプレイする「ソーシャルゲーム」が流行っている。オンラインゲームといえば、従来はハードユーザーがMMO(Massively Multiplayer Online=多人数参加型オンラインゲーム)という本格的なゲームをプレイするイメージが強かったが、ソーシャルゲームの登場で普段はゲームをしない層にまで気軽な娯楽として広がりつつある。

 日本ではmixiアプリが代表的だが、SNS上で動作するアプリを開発する際に利用できる共通の機能セットとしてGoogleが「OpenSocial(参照記事)」を発表したことで、ゲーム会社から個人までさまざまな人が作ったアプリが登場するようになった。

 mixiアプリで最も利用者が多い中国Rekooの「サンシャイン牧場(mixi内のサイトにリンク)」は、開始1カ月で100万人以上の利用者を集め(参照記事)、2010年1月現在では420万人を超えている。このスピード集客は、従来のオンラインゲーム事業では考えられない出来事である。この成功をうけて、「農園系アプリが流行」「田舎ブーム」と言われるようになった。

mixiアプリのサンシャイン牧場

 しかし、果たしてユーザーたちは、農園や牧場やガーデニングが好きでプレイしているのだろうか。筆者はサンシャイン牧場が流行ったのは、「田舎ブームだからではなく、人が仮想空間での活動を楽しいと思う仕組みが、上手く織り込まれていたからだ」と考える。同じような基本構造を持つゲームならば、題材は何でも良い。宇宙開発ゲームでも、中世の城建築でもいいだろう。大事なのは、見た目ではなく、人が仮想空間に価値を見出すようになる仕組みなのである。

 筆者は米国・韓国でPCオンラインゲームが普及し始めた2000年から、ゲームとコンテンツの研究をしている。当時、日本はまだブロードバンド化していなかったことから、オンラインゲームは非常に特殊なもの、あるいは韓国特有のコンテンツだと言われていた。それが今ではソーシャルゲームなど、誰しもが気軽に楽しめるものになった。

 ゲームとしての表現方法やプラットフォームは、時代とともに変化している。Second Life(参照記事)のような3D仮想空間、携帯アプリやソーシャルゲームと、多様な形態のゲームが生まれているが、それぞれが個性を主張し、独自のジャンルを立ててきたこともあり、ゲーム全般についての共通認識が形成されなかった。

『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)

 筆者は人が仮想世界に価値を感じるようになる心理プロセスには、ある程度の普遍性があると考えている。これをまとめたものが拙著『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』で、主にゲームにおけるマネタイズ(ユーザー課金)の方法について論じた。既存ビジネスがWeb上で課金モデルを構築するのに苦戦する中、ゲームは10年前からマネタイズに成功している優良事例で、ほかのコンテンツへの応用も期待されている。

 このコラムは、その本で扱ったゲーム・マネタイズ理論の続編である。近年、ソーシャルゲームや携帯アプリなどのゲームが一般層に広がり、ゲームビジネスとほかのコンテンツとが融合し始めている。そこで、こうしたライトなゲームを題材にして、コンテンツのマネタイズに必要な要素を考えていきたい。

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