職場では何が起きているのか? リストラとセクハラの温床に迫る吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2009年12月25日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 だが、「不支給」という決定が下った。労働基準監督署は「セクハラと(うつ病の)発病との間に因果関係が見られない」と回答したという。これに対し女性ユニオン名古屋は、厚生労働省の労働局に労基署の不支給決定の取り消しを求める不服審査請求をする考えだ。

「NO!」と言えない職場

 冒頭で述べた犯罪とこの事例に、重なるものがあるのではないだろうか。少なくとも、次のようなことが挙げられると思う。

(1)加害者は、自らの立場や権限、権力を利用して被害者に肉体関係を迫る。

(2)加害者は被害者に対し、最後は暴行(後者は未遂)をするなど、理性をこえた行動をとる。

 それぞれを、これまでのセクハラ事件の取材経験をもとに分析をする。まず(1)であるが、加害者の男は相手の女をよく観察し、弱みを見つけ出した。そして有無を言わせないような環境を作り、肉体関係を迫っている。要は外堀を埋めたうえで目的を達しようとしているのだ。用意周到に準備していたと言える。その意味でも、一層悪質である。

 さらに言えば、この時点で男は職場の状況もよく観察していたのではないだろうか。つまり、女に肉体関係を迫っても、周囲の人間は何も言わないと感じ取ったのだろう。実は、ここが問題なのだ。日本人は、職場における人権意識がうとい。

 このような犯罪に限らず、会社では本人の意思に反した退職強要や転籍などが、簡単に行われている。本来、これらは不当な行為であり、民法の損害賠償の請求対象行為なのだ。少なくとも労使双方で話し合うべきことで、ナアナアにするようなことでは、到底ありえない。

 ところが、誰も何も言わない中で淡々と不当な行為が行われている。何も言わなければ、経営陣や一部の管理職はそれを強行し、最後にはそれが「常識」として社内に浸透していく。2009年は多くの正社員が会社を辞めていったが、その裏では“簡単なリストラ”が横行していたのではないだろうか。

 これは、1990年代からいまに至るまで、多くの会社員が「辞めろ!」と言われても、拒絶の意思を示してこなかったツケととらえることができる。もうこの国では、経営陣が自らの責任をあいまいにしたままの簡単なリストラが「常識」になっているのだ。

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