だから週刊誌は売れない……そう感じた事例相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年12月24日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 購読部数や広告収入の激減に見舞われ、このところ明るい話題がない週刊誌業界。しかし、低迷の原因はこれらの外部要因だけなのか。筆者は最近、あるネタをめぐるいきさつを知り、低迷の原因が「作り手側にもある」という思いを強くした。当事者は、若手の編集者や記者なのだ。筆者があきれてしまった事例を紹介しつつ、問題を掘り下げてみる。

せめて直接取材を

 「せめて直接取材してくれれば、全く別の記事が出たはず」――。

 過日、東証一部上場企業勤務の幹部と会った際、この人物が顔を真っ赤にして憤慨する場面に遭遇した。実はこの人物、某週刊誌上でネタにされたばかりだったのだ。この人物が下請け企業に対して強い立場にあることを濫用している、というのが記事の主旨。筆者自身もこの告発記事を読み、随分と本人との間に乖離(かいり)があると思っていたら、案の定だった。

 冒頭の言葉の通り、記事中でやり玉にあがった当事者に対し、週刊誌の編集者や記者から直接の取材が一度もなく、全人格を否定するようなトーンで書かれたことが怒りの根源にある。

 特定の個人、あるいは企業の姿勢や行動を糾弾する記事を書く場合、これを告発した人物の言い分を聞くのは当然として、批判の対象となる相手からも十分に話を聞くというのが週刊誌だけでなく、メディアで働く記者の基本だ。双方の言い分を踏まえ、記者の判断として叩くべきは叩く。筆者の経験上、こうした手順を踏まなければ、怖くて記事など出せない。が、この人物に関する報道では、「こんなネタが入っていますが、あなたの言い分は?」という基本作業がすっぽりと欠落していたのだ。

 取材される側が記者から逃げ回り、一切接触を取れないケースもある。ただ、この記事に関しては、槍玉にあがった人物は記者との接触を待ち構えていたので、「取材できなかった」という言い訳は通用しない。重ねて言うが、当該の記事は芸能人のゴシップ記事ではなく、企業やそこに勤務する幹部に関する硬派な中身だったのだ。

 筆者が調べたところ、告発者はいくつかの媒体を回り、ネタ提供を申し入れていたことも判明した。実際、ある週刊誌では「“滑りそう”なネタだったのでボツにした」(編集幹部)だった。滑りそうとは、一方的な言い分ばかりで、裏付けを取った段階でボツになるか、記事を出した場合、相手から訴えられるリスクさえある、という意味だ。

 筆者がみるところ、記事にされた人物にも誤解を与えかねない部分はあった。ただ、この週刊誌が一方的にまくしたてたような事実はなかった。筆者は商売柄さまざまな媒体と付き合いがあるが、最近はこうした現象が増加傾向にあるようだ。

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