この手口で、会社を辞めさせられる……配置転換に潜むワナ吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2009年12月18日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

能力が高い人でも、配置転換で辞めさせられる

 労働問題を40年以上も研究している甲南大学名誉教授の熊沢誠氏に1年半ほど前に取材したとき、このようなことを話されていた。

 「企業からすると、能力抜群の人を配置転換により、“能力が低いくくり”に入れることが簡単にできます。企業がある労働者を辞めさせたいと思ったら、その人にあまり目立たせない仕事をさせることで評価を低くすることができます。そして、そのあとは仕事を取り上げていく。(会社は社員たちを)こういう事態に追い込んでいくことができるのです」(『非正社員から正社員になる!』、光文社)

 私は、20年ほど前に熊沢氏のことを知った。会社のカラクリをこの研究者ほど見抜いている人はいないのではないかと思う。著書『日本的経営の明暗』(筑摩書房)の前半で書かれてある、大手メーカーの退職強要の描写は怖くなるくらいリアルである。

 常識的な、普通の職場でよく見られる配置転換ならば神経質になることもないが、不当な配置転換に対し、どのように対応すればいいのだろうか。

 配置転換の業務命令をやめさせることは簡単なことではない。確かに前述のような良識的な裁判の判決はある。ただし、これまでの判決や争いの場での傾向としては、次のようなことが言える。

  • 解雇は労働者側が有利になり、会社側が不利になる場合が多々ある。
  • 配置転換は、会社側が有利になることが多い。

 配置転換をめぐっての争いの場で、労働者側から時おり指摘されることがある。それは「あの社員を辞めさせる」という不当な目的や動機をもった配置転換は、法の場では認められていないというもの。確かにそのとおりなのだ。実際、このような配置転換は不当であり、許されない。

 だが、この不当な目的や動機を会社員が立証するのは困難だ。そのいかがわしい目的や動機は人事部や役員、経営者などごく一部しか知らない。想像してほしい。彼らが、「君を辞めさせたいから、異動を命じた」と言うだろうか。

 おそらく、最後の最後まで、「あくまで業務上の必要性があり……命じた」と嘘をつき続けるに違いない。このように2枚舌、いや、ときに5枚舌を白々しく使うのが、会社の上層部ではないだろうか。

 このようなことを踏まえると、よほどの理由がない限り、配置転換の業務命令は拒まないほうがいい。拒むと、業務命令違反として処分される可能性がある。その時点で解雇にする可能性は低いだろうが、可能性がまったくないとは言えない。少なくとも今後、昇進は難しくなることは肝に銘じるべきである。私が取材をしていると、いわゆる“飼い殺し”になるケースが多い。

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