さらに、チェックインだけではなく、チェックアウトのアイデアも秀逸だ。
一般の温泉ホテルに泊まる際、本当は「朝風呂にゆっくり入りたい」のに、例えば朝食の時間が7〜9時と決められているがゆえに、朝食の前に急いで入ったり、朝食後に入る場合でも、チェックアウトの時間を気にして、ゆっくり入れなかったりしたことはないだろうか? 朝風呂の時間を確保するために、朝食を急いで食べたり……という経験のある人も少なくないはず。せっかくリゾートホテルにくつろぎに来ているのに本末転倒。最悪の場合は、寝坊してチェックアウトで精一杯→朝食を食べ逃した、なんて人もいるかも。
特に女性の場合は化粧をする時間も必要なので、ゆっくりと朝風呂を楽しめる時間が実はほとんどないのだ。
その点、このホテルは「朝食はゆったりと11時までいつでもOK!(チェックアウトは10時)」となっており、朝にゆっくり温泉に入れるし、もし寝坊しても、チェックアウト後に朝食をとれるので、「朝食に間に合わなくて損した」なんてこともない。
ここでも、「チェックアウトは11時まで」と単に告知するだけではなく、チェックアウトが11時になることによって、「朝食がゆっくり食べられる」というベネフィット(お客様の便益)を伝えているのが秀逸だ。
日常生活であれば、朝食が7〜9時というのは普通かもしれない。その流れで朝食の時間帯を決めれば、ホテル側は食事の準備や後片付けなどをまとめて行うことができ、従業員の労働計画も立てやすい。しかしそうした食事時間の細かな設定などは、「ホテル視点の発想」とも言えるのである。
ここで改めて、お客さま視点で考えてみたい。お客さまはリゾートホテルに“非日常”を味わいに来ているわけで、「できるだけゆっくり過ごしたい」「自分のペースで過ごしたい」というのが本音だろう。
「朝、ゆっくり過ごしたい」というお客さまの欲求に対し、次のお客さまのために部屋の清掃など、「準備を始めなくてはならない」ホテル側の業務。この2つを共存させるための仕組みこそが、「チェックアウトは10時→でも、朝食はゆったりと11時までOK!」なのである。
チェックイン・チェックアウトのような、ホテルとしては最も基本的な業務でさえ、お客さまをじっくり観察して、そのニーズをつかむと、新しいサービスのヒントが見えてくる。
お客さまの視点に立ったこの2つのサービスは、言われてみれば「誰でもできそう」なのに、なぜか「誰もがやっているわけではない」サービスなのである。そしてそのことは、結果的に、他社との差別化を生む一要素になっている。もちろん、探し出したヒントを「実行」に移す力も大切であることは言うまでもない。
これまで述べてきたことは、1つ1つを見れば、そんなに大きなサービス改革ではないかもしれない。しかし、「リゾートホテルとは何か」を考えさせられる良い事例だと、筆者は感じている。
逆に、これがビジネスホテルであれば、「朝、ゆっくりくつろぎたい」欲求よりは、「チェックアウト時、フロントの混雑の中で待たされるのが嫌だ」など、より実務的な欲求が強くなってくるのではないだろうか。
ワシントンホテルグループや、ダイワロイネットホテルグループが採用している、カードを通すだけでチェックアウトができる「自動チェックアウト機」は、まさに、そんなビジネスパーソンの欲求をつかんだサービスである。
その意味でも、不況でモノが売れないと嘆いている人は、もっともっとお客様の視点で、次のサービスのヒントを探してみてはどうだろう?
成功のヒントと売れる仕組みのアイデアは、きっとそこら辺にごろごろ転がっているはず。そう、「答えはいつもお客様の中にある」のだから。(小野寺洋)
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