動物クレヨンからチョンマゲ羊羹まで――“そうなのか!”があるデザイナー南政宏郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2009年12月17日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

“くだらなさ”の美学

南政宏さん

 「羊羹に挿しこむのし紙に、『……してチョンマゲの件』と願いごとを書いてもいいんです」とニヤリと笑って語るのは、このコンセプトを作った南政宏さん。商品、家具、そしてグラフィックのデザインまで手がける、今注目の“暮らしデザイナー”である。

 お会いするなり、「なぜチョンマゲと羊羹が結びついたのですか?」と野暮な質問をしたところ、「分かってチョンマゲ」と言われてしまった(笑)。そういえばミッドタウンの展示には作品説明があり、読んだのにうっかりした。許してチョンマゲ。

 Tokyo Midtown Awardは今年で2回目。デザインコンペ部門には1322件の応募があり、そのグランプリ作品だ。審査員の原研哉氏(グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表)の弁。「そのくだらなさがいい。江戸時代、京都から江戸に伝わる文物は“下りもの”と言われた。一方で江戸文化は、京都から“下ったものではない”ので、江戸っ子は馬鹿馬鹿しさやナンセンスさをむしろ誇りとして“下らない”と称していた」とうんちくを披露された。お土産の本質はくだらなさにあると看破し、「チョンマゲ羊羹はくだらなさの美学の真ん中を射止めた」と賞賛した。

 「そこまでの思いはなかったのですが」と南さんは笑う。

 このありえないおかしさを、さる羊羹製造会社に提案したところ、いいところまで行ったのだが商品化は保留。マゲと羊羹のカタチや色の類似、食べ物と人間のパーツを同化させるすごさ。「分かってチョンマゲ〜」と言いたい。こんなアイデアが出てくる発想源を知りたくてお話をうかがった。羊羹に至る道のり、まさに発想を煮詰めた感じだった。

アニマルクレヨンの教訓

 『Red animal crayon(レッド アニマル クレヨン)』はコクヨデザインアワード2008の受賞作。“消えゆく動物たちの真っ黒なクレヨン”をコンセプトに、絶滅が危惧されるイリオモテヤマネコなどの動物たちを1つ1つ形作った。

 作品説明にはこうある。「使っているうちに動物の形が消えていく。絵は残るが、動物は消えていくというシュールなアイデア」。どんな経緯で発想を?

 「コンペのテーマは“炭素”だったのですが、デザインと炭素というのが中々、結びつかない。環境変化について考えていたら、ひらめきがあったんです」

 滋賀県立大学の教員でもある南さんにとって、ブラックバスの放流もあって生態系が激変した琵琶湖は身近な存在。コンペのテーマ「炭素」に環境変化を重ねて“絶滅”をデザイン。受賞はしたが審査員には「メッセージ性が強すぎる」と言う人もいた。「クレヨンを使う子どもの身になって考えると、黒だけのクレヨンは売れない」という意見もあった。「黒=死」というイメージも子どもには重い。1つの教訓だった。

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