「ジョージア」復活の秘密とは?――コカ・コーラのブランドマーケティング(1/2 ページ)

» 2009年12月11日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:松尾順(まつお・じゅん)

早稲田大学商学部卒業、旅行会社の営業(添乗員兼)に始まり、リサーチ会社、シンクタンク、広告会社、ネットベンチャー、システム開発会社などを経験。2001年、(有)シャープマインド設立。現在、「マインドリーディング」というコンセプトの元、マーケティングと心理学の融合に取り組んでいる。また、熊本大学大学院(修士課程)にて、「インストラクショナルデザイン」を研究中。


 日本で消費される缶コーヒーは年間100億本。金額ベースでは8000億円に達します。清涼飲料メーカーの間では「缶コーヒー市場を制する者が清涼飲料市場を制する」と言われるほど重要なカテゴリーです。

 このため、コカ・コーラ「ジョージア」、サントリー「BOSS」、キリン「FIRE」、アサヒ飲料「WONDA」といったトップメーカーの新製品開発や、広告・販促施策における競争は熾烈(しれつ)なものがありますよね。

 →コカ・コーラのブランドマーケティング

出典:日本コカ・コーラ

ブランド力でBOSSに負けていたジョージア

 現日本コカ・コーラ会長の魚谷雅彦氏が1994年に同社に入社した時、まず早急な建て直しを求められたのが「ジョージア」でした。ジョージアは当時、矢沢永吉さんをコマーシャルに起用したサントリー「BOSS」の人気に押されて、じりじりと売り上げを落としていたのです。

出典:サントリー

 当時のジョージアの市場シェアは43%。トップブランドの地位は保っていました。また、ジョージアの「認知率(助成認知率)」は90%以上。実質、日本人なら誰でも知っているブランドと言えますね。

 ところが、「缶コーヒーと言えばどのブランド?」という質問で確認する「非助成認知率」では1位がBOSS。ジョージアは2位だったのです。つまり、当時のBOSSのシェアは10%以下だったにも関わらず、ブランド力ではBOSSに負けていたというわけです。

 当時、消費者の購買行動が変わり始めていました。缶飲料は従来ほとんど自販機で買われていました。現在でも自販機の約半数はコカ・コーラが展開していますが、自販機を通じた強力な販売力が同社の強みの1つ。ジョージアがトップブランドになれたのも、同社製品しか買えない自販機のおかげです。

 しかし、コンビニが普及したため、缶飲料が自販機ではなく店舗で買われる機会が増えてきたのです。さまざまなブランドが並ぶコンビニの場合、ブランド力が強い方が勝ちます。

 要するにコンビニなどの小売店では、ジョージアではなくBOSSを選ぶ人が増加した。結果的に、ジョージアの全体的な売り上げ低下につながっていたのが1990年代中ごろの状況でした。

ブランド力低下の原因は広告

 では、なぜブランド力が低下していたのでしょうか?

 魚谷氏とジョージアのチームがその原因を検討した結果、「広告に問題あり」という結論になったそうです。

 当時、ジョージアの広告はアトランタ本社が主導していました。米国では、「ジョージア」はブルーカラー(肉体労働者)の飲み物と認識されていました。そのため、当時の広告では「マッチョな体つきの港湾労働者が汗だくになって働いた後にジョージアをおいしそうに飲む」といったストーリーが展開されていたのです(ジョージアは日本発の飲料ですが、やはり本国の意向に大きく左右されるんですね)。

 もちろん、日本でもガテン系の労働者の缶コーヒーの消費量が多いのは確かです。しかし、たとえ工場などで働いていたとしても、多くの日本人はブルーカラーとかホワイトカラーといった区別はほとんどしませんし、むしろ企業に勤める「サラリーマン」という意識が強い。米国的ブルーカラーに向けたマッチョな広告では、日本のサラリーマンの共感をあまり得られなかったのも当然かもしれません。

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