全9回でお送りする、ジャーナリスト・上杉隆氏とノンフィクションライター・窪田順生氏の対談連載もいよいよ最終回。記者クラブ、若手記者の育成、他の新聞への批判と敬意など、2人はメディアのあり方について語り合った。
→“ジャーナリズムごっこ”はまだ続く? 扉を開かないメディア界(3)
→取材現場では何が起きているのか? 新聞記者と雑誌記者に違い(5)
→なぜ朝日新聞の記者は、高い給料をもらう“権利”があるのか? (7)
→朝日新聞の世論調査を批判したら、本社に呼ばれて怒られた(8)
1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして活躍するほか、企業の報道対策アドバイザーも務める。
『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 』(講談社α文庫)がある。
上杉 海外メディアの場合、例えばワシントンポストがニューヨーク・タイムズを批判する。それに対しニューヨーク・タイムズがワシントンポストに反論する。メディア同士が普通にかんかんがくがくと議論していますよね。
でも日本の場合、朝日新聞で読売新聞を批判する記事は一切掲載されない。と同時に、読売新聞のスクープも載せない。例えば読売新聞がスクープをとれば、ほかの新聞は敬意を評して「読売新聞のスクープはこうだ。だけど○○新聞が取材したところによるとこうだ」と書けばいい。こうしたことを海外のメディアは、当たり前のようにやっていて、敬意を評しながらも批判も忘れません。しかし日本のメディアは批判されると、どうしていいのか分からないので大混乱に陥ってしまう。そういう意味で、非常に弱い組織なのかもしれません。
窪田 攻撃に対し、恐ろしく弱い体質ですよね。
土肥(編集部) メディアというのはそもそも攻撃することが商売ですよね。その一方、なぜ攻撃されることに対し、そのほどの弱さを見せるのでしょうか。
上杉 やはり彼らはエリートなんですよ。小さいころからあまり批判された経験がないので、ちょっと批判されるとどうしたらいいのか分からない。
窪田 もともと新聞や雑誌というのは、格調高いものではなかったはず。部数が少なかった時代はもっと下品だったが、読者が増えることによって自主規制が強くなっていったのではないでしょうか。創刊当時は面白い記事や企画が多かったのに、いつの間にか“官報”のようなものになっていますよね(笑)。
上杉 メディアを批判することは本当に難しい。例えばライターがどこかの雑誌を批判する記事を書いたりすると、批判された出版社は「あの記者を消せ!」「一切使うな。徹底的に干せ!」となりがち。そうなれば、そのライターは終わってしまう。ちなみに僕の場合は消されてもいいように、ゴルフ取材を続けています(笑)。これまでも週末はゴルフ取材だったのですが、最近では金・土・日曜日というように平日にもゴルフ場に出かけています。最終的には政治取材の永田町が週に1日だけ、あとは全部ゴルフ場にいるということになるかもしれませんね(笑)。
多くのフリーライターは「この職業を奪われると、もう終わりだ」と感じています。窪田さんや僕に共通していることは、いろんな仕事をしてきたこと。だから、いつこの仕事を辞めてもいいや、と思っていませんか?
窪田 古巣の朝日新聞から睨まれようが、エライ人とケンカしようが、怖くともなんともない。
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