第二、第三の『毎日新聞』が出てくるかもしれない……再編が始まったメディア界相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年11月27日 12時38分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 毎日新聞と共同通信社、そして共同加盟の地方紙は11月26日、記事配信事業を中心に包括提携すると発表した。毎日が共同のネットワーク網に参加、取材効率を高めるのが最大の狙いだ。今回の発表は、一般読者にとっての関心はいまひとつかもしれない。だが、メディア業界には大きな衝撃を与えたと筆者は確信する。一般企業に比べ事業の再構築が遅れに遅れていたメディア業界にとって、これは再編の第一歩に他ならないからだ。今後、第二、第三の毎日新聞が出てくることを予想する。

脱フルライン経営の橋頭堡

 今年9月、筆者は『フルラインアップ経営は必要か――スリム化に踏み切れない在京紙』と題し、当コラムでメディア界の無駄、そして旧態依然とした経営体質を批判した。

 この記事の中で触れた在京紙がどこかについては触れないが、毎日経営陣に強い危機感があったことは紛れもない事実だろう。

 以前にも指摘したが、日本の取材現場はあまりにも非効率だ

 共同、時事という大きな通信社が2つもありながら、在京各紙の記者は自前主義にこだわる経営センスゼロの首脳陣に振り回されてきた。

 日々の発表モノに追われ、他紙の後追い取材を強いられてきた。加えて、昨今の経費削減で記者数や取材経費が減らされ、自身の取材テーマを根気強く追う体制が奪われつつあったのだ

 今回の包括提携により、毎日新聞の記者は一連の呪縛から解放される。平たく言えば、スクープを追いかけることのみに専念できるのだ。

 新聞記者を志した以上、スクープを追うのは当然。だが、昨今メディア界が疲弊し続ける中、ルーティーンワークに追われ、記者として当たり前のことができなかったのだ。一社だけがネタを落とす“特オチ”の恐怖から解放された毎日の記者だが、スクープを“抜かれ”ることのプレッシャーは増大する。しかし、同社記者の多くが、今回の提携を歓迎していると筆者はみる。

 一方、読売、朝日、産経、日経など他の在京紙の記者は戦々恐々だろう。横並びの会見取材をしている間、毎日の記者の姿が見えなくなるからだ。長年、取材現場にいた経験から言えば、これは恐怖以外のなにものでもない。

 上司に指示され、記者会見に出席する。あるいはアリバイ的な夜回り取材に出向く。その場で他紙記者がそろっていることを横目に見て、“特オチ”がないことを確認できていたからだ。

 毎日が共同の記事を使い、経営資源をスクープに注力すると言っても、その効果は一朝一夕に現れるものではない。ただ、その成果は確実に出てくると予想する。そうなれば、他の在京紙も安穏としていられない。

 独自取材に基づく記事を掲載し続けなければ、ただでさえ減っている購買部数にジワジワと効いてくるからだ。今回の毎日・共同の包括提携は、日本型フルライン経営を脱する橋頭堡と指摘したのは、こんな背景があるからだ。

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