学生生活の悩み、時間、お金――保田隆明が大学院に行く理由(後編)社会人大学院特集(2/5 ページ)

» 2009年11月25日 11時00分 公開
[房野麻子,Business Media 誠]

 社会人大学院生の場合、1年間あまり授業を入れず、修士論文だけに専念するという気持ちにはなれないと保田さんはいう。「学部からすぐ修士課程に行かれる方にとっての修士論文は、その後の博士号に進むための登竜門的な位置付けです。しかし社会人大学院生にとって、修士論文は確かに重要ですが、それだけをやりに来ているわけではないという気持ちが強いと思います。いろんなことを学びたい、論文も他の科目も両方やりたい。要するに欲張りなんだと思います」(保田さん)

 このどん欲さは、学費を自分で払っているという意識から来るという。早稲田のファイナンス研究科の場合、学費は半期(1学期)で約80万円だ。1学期中に取れる科目数には上限があり、現在は8科目。つまり単純に考えて1科目10万円の計算になる。授業は1学期に15週あるが、10プラスαと考えると、1回の授業は7000〜8000円程度。感覚的には“授業1コマ1万円”になる。

 「こう考えると、科目を履修せずに修士論文だけで80万円は払えない。いかに自分の投資したお金に対するリターンを最大化しようかと思うと、たくさん単位を取りたくなります」(保田さん)

 また一方で、ファイナンス研究科には約130もの科目があるが、修了までに取れるのは1学期8科目×4学期で計32科目となる。フルに履修しても130分の32、残りの100科目は授業を受けないまま卒業することになる。「取り足りない」と思うのは自然なことで、修了後も科目聴講生として大学院に残る人が一定の割合でいるそうだ。こういう状況なので、ほとんどの学生がフルに科目を履修する。

 「1年目は基礎や自分の知らないジャンルの科目を意図的に取ってみたのですが、1年学ぶと、ファイナンスのこの分野とこの分野がこういう形でつながっていたんだ、というのが頭の中でおぼろげに分かってきます。分かってくると、2年目の応用科目がより楽しくなってくるんです」(保田さん)

 なお、多くの大学院には、自分の専攻以外の科目を聴講できる制度があるので、ある程度単位を取得できれば、興味を持っている他の科目を学んでみるのもいいだろう。大学院全体のインフラを活用すれば、「費用対効果でいうと、いくらでも取り返しのしようはある」(保田さん)

平日の夜に勉強、週末は家族サービス

 仕事と勉強の両立で多忙な社会人大学院生にとって、パートナーや家族の理解や協力は欠かせない。保田さんの場合も、大学院に行くことに賛成してもらうまでは、なかなか大変だったようだ。

 「妻には『その大学院を卒業することによって、どうなるの?』『何が変わるの?』『行く必要があるの?』と言われましたね。単純に、そんな時間があったら育児をしてよ、という話だったりもするんですが(笑)。要するに、大学院に通い始めたら、毎日毎晩家にいないわけです。平日の夜は全部彼女におまかせしなくちゃいけない、土曜日もいないとなれば、それは『どういうことなの!』と思いますよね」(保田さん)

 お金もシビアな問題だ。保田さんの同級生の中には、「80万円×4学期=360万円。そんなお金があったら、家の頭金にしたい」とハッキリ言われた人もいたという。

 そんなわけで、週末は家族サービスという人が多い。となると、課題はいつやるのか。「平日の夜に帰ってから、とかですね。トータルの勉強時間は限られます。学校にいる時間を含めればある程度勉強していることになりますが、1人で勉強しているのは平日家に帰ってから寝るまでなので、例えば2時に寝たとしても1日2時間くらいです。そう考えると、四六時中ひたすら勉強している高校3年生の方が、たぶん勉強時間は長いですよ」(保田さん)

 その代わり、社会人大学院生は集中力で勝負する。「気力体力はボロボロになりますけどね。今年の前半は、私の人生で一番つらかった時期です。後期が9月の中旬から始まりましたが、今期は本当に死ぬんじゃないかと思っています(笑)」(保田さん)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.