なぜギャップが生まれる? 環境都市とその実態松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年11月24日 11時36分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 ドイツの環境政策に興味を持つ人ならば「環境首都」と称されるフライブルク市のことを見聞きしたことがあるはずだ。特集こそ組んだことはないが、この時事日想にも折に触れフライブルクの話題が登場する。

 フライブルクはドイツ南西部のバーデン・ヴュルテンベルク州、黒い森地方の西端に位置する人口約20万人の中規模都市である。温暖な気候(平均気温約12℃)、歴史ある街並み、豊かな自然、フランスやスイスに近い立地条件から観光地としても人気が高い。

 環境分野でフライブルクが一躍有名になったきっかけは、ドイツのNPO「ドイツ環境支援協会」が主催した環境首都コンテストにおいて最高点を得たことによる(1992年)。このコンテストはエネルギー、交通、廃棄物、緑地など分野ごとに設けられた質問に自治体が答える形で審査が行われ、ドイツ環境財団の補助を受けながら2001年まで行なわれた。その後もフライブルクは一貫して環境都市づくりを進めており、先進的な環境政策を視察しようと日本のみならず世界各地から視察団が訪れている。

フライブルク中心市街地(左)、中心市街地の歩行者地区(右)

反原発とソーラー

 フライブルクが特に力を入れるのはソーラーエネルギーの研究開発と産業育成だ。市の広報誌や環境保全団体の機関誌には「ソーラー都市」「ソーラー地域」といったキャッチフレーズが並んでいる。国内で日照量が最も多いという地理的条件を生かしているのだが、フライブルクがソーラーに重心をかけるようになった背景には1970年代初頭に持ち上がった原子力発電所建設計画とそれに反対する市民運動がある。

 フライブルクの位置するライン川上流地域はドイツ、フランス、スイスが国境を接し、西欧州中央部の交通の要所として産業発展が期待される地域であった。増大する電力需要をまかなうため各国はライン川沿いに多数の原発を計画し、もし計画通りに進めば世界的にもまれな原発密集地域になるはずだった。

 それに異を唱えたのが原発予定地近くでブドウを栽培する一軒の農家だった。この地域は温暖な気候を利用したブドウ栽培とワイン醸造の盛んな地域であり、原発建設による悪影響を心配してのことだった。農家の反対運動は環境保全運動と結びつきながら市民団体を巻き込み、ついには建設中止に追い込んだ。

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