低価格「ハンバーグ専門店」隆盛のヒミツを考えるそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2009年11月24日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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家庭での調理が難しいハンバーグ

 実は、みんなが大好きなハンバーグには、大きなニーズギャップが存在するのである。Googleで「ハンバーグ 難しい」と検索してみよう。約71万2000件がヒットする。「焼き方が難しい」とするブログのエントリや掲示板のコメントがズラリと並ぶ。そうなのだ。ハンバーグは外側をこんがり、中をジューシーに焼き上げるのは意外と難しい。中途半端な加熱だと、中の肉がまだ赤いままになってしまう。

 国立情報学研究所のデータベースにある論文「ハンバーグステーキ焼成時の内部温度 : 腸管出血性大腸菌O157に関連して(第4報) : 一般家庭におけるハンバーグステーキの焼成方法に関する実態調査」によると、多くの家庭での調理方法では加熱不十分で危険な状態であると指摘している。

 かといって、これでもかと加熱してはポロポロのパサパサでジューシーさのかけらもなくなってしまう。

 その解決策として急速に普及しているのが「煮込みハンバーグ」のソースである。

Creative commons.Some rights reserved.Photo by by machu.

 オリコンの記事「『料理の腕をカバーできる』煮込みハンバーグの市場拡大」を見てみよう。

 ソースメーカーのハインツによると、「市販の焼きハンバーグ用ソースが縮小するのに対し、煮込みハンバーグ用ソース市場は前年比113%と大幅な拡大傾向にある」状態だという。その理由として、同社の調査によると焼きハンバーグの調理を不安に思っている主婦は多く、「生焼けになりにくい」、「焦がしにくい」という理由から煮込みハンバーグを選ぶ人が増えていると分析している。

 失敗はしないかもしれない。でも、やっぱり「ハンバーグはジュワーッと肉汁がこぼれる『焼き』で食べたい! 『煮込みハンバーグは邪道だ』」という感覚に、賛同してくれる人は多いのではないだろうか。そこで、「専門店」の出番なのだ。

 外食産業不振の中で登場した低価格ハンバーグ専門店。内食傾向はさらに強まるかもしれないが、たまに外食もしたくなるのは否めない。そんな時、特別な料理ではないけれど、意外と家庭で作るのは難しいハンバーグを、家庭で一から具材を揃えて作るのとたいして変わらないぐらいの価格で提供することができれば、それは大きなKBF(Key Buying Factor:購買決定要因)となる。

 さらに、ピンポイントでみんなが大好きなハンバーグに集中すれば食材の集中仕入れもでき、廃棄率も低減する。コスト低減というKSF(Key Success Factors)も実現できるがゆえに、低価格で提供できて集客が見込める。いわばKBF=KSFという好循環が期待できるのだ。

 冬のボーナスは過去最大の減少率という。財布のひもは固くなる一方。こんな厳しい時代こそ、消費者のニーズギャップに注目してピンポイントで勝負をかけることが大切なのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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