高騰を続ける原油の先物相場と、ロシア政治の関係藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年11月16日 07時45分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 2003年にゴールドマンサックスのリポートで有名になったBRICs。この中では中国が先頭を走り、次いでインド、ブラジルと続く一方、出遅れているのがロシアだ。昨年のリーマンショック後、それが際だっている。中国は今年でも8%を超える成長が見込まれているし、インドも5%台。ブラジルは今年は若干のマイナス成長だが、来年は3.5%ほどのプラスに回復するとみられている。対照的に、ロシアは今年7%を超えるマイナス成長。来年は1%台のプラスに辛うじて乗せるという程度だ。

 そのロシアでメドベージェフ大統領が年次教書演説を行った。この中で大統領は、ロシア経済の現状について「資源依存の経済が続いている」と指摘し、民主的な価値観に基づく近代化が必要だと強調したという。リベラル派として知られるメドベージェフの面目躍如といったところだろうが、どうやらそう簡単ではなさそうだ。

今のロシアを支配しているのは誰か

 要するに問題は、今のロシアを「支配」しているのは誰かということだ。日本のメディアはそうでもないが、世界的には実際に権力を握っているのはプーチン首相という見方が強い。あるロシア政府関係者がこう言ったことがある。「次の大統領選挙の結果は明白だ」と。つまり、プーチン首相が大統領として返り咲くというのである。その時までに、メドベージェフが大統領の任期を6年にし(実際、昨年の年次教書でそう提案した)、プーチンに「大政奉還」すれば、プーチンはそれから12年大統領として君臨することになる。

 この見方には、メドベージェフがあくまでもプーチンの「子飼い」であり、反旗を翻すことはないという前提がある。西欧諸国にしてみれば、エネルギー資源(石油と天然ガス)を外交的駆け引きの道具に使い、ロシアの利益のために価格引き上げを狙っているプーチンよりは、産業や技術立国によるロシア活性化を提唱するメドベージェフの方が好ましい。メドベージェフも当然それは意識しているはずだ。

 しかし問題は、プーチンの「子飼い」はメドベージェフだけではないことである。というよりプーチンは、大きく言えば2つの派閥に乗った形で統治しているのだという。情報誌『STRATFOR』によれば、1つはセチン派であり、もう1つはスルコフ派だ。

 セチン派の領袖(りょうしゅう)はイゴール・セチン副首相であり、その権力基盤はKGB(国家保安委員会)の後身であるFSB(国家保安庁)。共産主義には何の未練も持っていないが、目指すところは大国ロシアの復活だ。そのためにロシアのエネルギー資源を一手に管理することを求める。情報機関以外でセチンの権力の源となっているのは、国営石油会社ロスノフチだ。さらに内務省、エネルギー省、国防省を握っている。

 そして一方のスルコフ派の領袖は、チェチェン生まれのウラジスラフ・スルコフ大統領府副長官だ(プーチンの第一補佐官でもある)。このスルコフの権力基盤は、昔からKGBと仲の悪い GRU(連邦軍参謀本部情報総局)とされている。さらにセチンの権力基盤の1つが国営石油会社ロスノフチであったように、スルコフには国営天然ガス会社ガスプロムが与えられている。さらに財務省、経済省、天然資源省などを押さえている。

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