コラム
» 2009年11月12日 08時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:本をヒットさせるために……欠かせない書店員のチカラとは (1/2)

「本が売れない」「雑誌も売れない」――。いわゆる“出版不況”が続いているが、関係者はなにも手をこまねいているわけではない。出版業界が重苦しい空気に包まれている中、ヒットの起爆剤として注目されるのが書店員のチカラだ。

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。 2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 当コラムで何度も使っているキーワードが「出版不況」。本が売れない、雑誌も売れないと嘆く関係者は多いが、なにも手をこまねいているわけではないのだ。今回の時事日想では、出版業界が重苦しい空気に包まれる中、ヒットの起爆剤として最近とみに重みを増している書店員の存在にフォーカスする。

プロの“本読み”

 筆者が毎週楽しみにしている新聞コラムがある。日本経済新聞夕刊、木曜日の読書欄の中にある『ベストセラーの裏側』という企画だ。同じ紙面上には、文芸評論家が記した書評欄があるが、断然、この“裏側”の方が面白いのだ。

 その理由は、小説やビジネス本などあらゆる分野のベストセラー書籍に関し、担当編集者や営業担当者による生のコメントが掲載されているからだ。

 この中には、書籍を刊行するにあたり、どういった読者層を意識したのか、あるいはどんな切り口で読者の関心を引くタイトルを付けたかなど、編集者による生々しい話が載る。このほか、営業担当者がこまめに書店を回り、読者の生のニーズを拾い上げている様子などが詳細に記されているのだ。

 筆者が見る限り、同欄で頻繁に登場するキーワードは、「書店員」。全国チェーンの大型書店、あるいは地域密着型の老舗など書店のタイプはさまざまだが、そこに務めている書店員は本好きなスタッフが多い。読書好きが高じて書店員になったと公言する人も少なくない。いわばプロの“本読み”が多いのだ。本読みの比重が他の業種より抜きん出て高いのは言うまでもない。最近の出版界は、こうした“本読み”のスタッフに着目しているのだ。

 書店の風景を思い出していただきたい。

 店舗の入口付近、あるいはレジ近くなど、顧客の目に接する機会が多い場所には、書籍を平積みする“平台”が必ず設けてある。この平台には、大手出版社を中心とした新刊本、あるいは人気作家の売れ筋商品がズラリと並ぶが、展示の権限の大半はプロの本読みたる書店員が握っているのだ。

 毎月膨大な量の新刊本が発売される中、ふらっと書店に入っても何を買って良いか迷う読者も多いだろう。

 こうした際、参考になるのが本の概要やお勧めポイントを簡潔に記したポップ、あるいは版元が販促用に用意したポスター、パネルの類のはず。毎月、書店に寄せられる多数の販促グッズの中から、売れ筋を見抜き、これらをどう掲示するかも書店員の判断にかかっているのだ。

 純文学やエンタメ、ミステリーなどの名だたる文学賞に交じり、全国の書店員が一番売りたい本、いわばイチオシを選ぶ「本屋大賞」が昨今注目度を上げているのは、本が売れない時代にあって、読者と版元をつなぐ要の位置に書店員が立っているからに他ならない。

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