地方銀行と交通ICがコラボ――「ひろぎんPASPY」はなぜ生まれたか神尾寿の時事日想(2/3 ページ)

» 2009年11月04日 10時32分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

地域ICカードとして誕生したPASPY

 広島を訪れたことのある人は分かると思うが、広島県内の公共交通は「路面電車」と「バス」が主役だ。そのためPASPYも、電車や地下鉄ではなく、路面電車・バスでの利用を主とする交通ICカードになっている。

 PASPYの歴史を振り返ると、2004年頃から導入準備が始まり、2008年1月26日にPASPYサービスがスタート。その後、バス利用エリアの拡大(2008年後半)や、広島電車市内線(2009年3月)への展開など利用拡大が進み、今回紹介する「ひろぎんPASPY」は2009年4月に発行が始まった。現在は導入3カ年計画の“仕上げ”の時期に位置づけられている。

 交通ICカードとしてPASPYを見ると、ユニークなのは「チャージ(入金)環境」の整備方法だ。Suica/PASMOなど一般的な交通ICカードは、駅の券売機でのチャージや自動改札機でのオートチャージ機能によって、カード内の利用分を補充する。しかし、PASPYでは2009年1月から広島銀行と提携し、沿線の同行ATM約200台でチャージができるようになっている。しかも現金だけでなく、キャッシュカード(銀行口座)からPASPYへのチャージにも対応。キャッシュカードから交通ICカードへの直接チャージは国内初である。広島電鉄 バスカンパニー バス企画グループ グループマネージャーの坂井康裕氏によると、「10月から広島県内4信金(ATM75台)でもPASPYチャージに対応する」という。

広島銀行と提携している交通ICカードPASPY(左)。ATMによるPASPYチャージ機能の課題(右)

 「PASPYの利用環境は『バス』や『路面電車』が主になりますが、(一般的な電車との違いは)拠点駅が少ないことにあります。ですから、車内でのチャージが主になるのですが、これは円滑な運行や車内事故防止の観点からあまり望ましいものではありません。しかし、一方で市内のバスセンターの数は限られています。

 そのような中で、広島銀行に協力していただき『ATMでのチャージ』を実現しました。広島銀行のATMは県内各所にありますし、セキュリティもしっかりしている。(ATMチャージは)お客様の利便性が高いだけでなく、安心感を持っていただけるというメリットがあります」(坂井氏)

広島銀行はなぜPASPYに協力したのか

広島銀行個人営業部長の小川実氏

 広島銀行は、同行のATMをPASPYのチャージ環境として提供する一方で、自らも「ひろぎんPASPY」という銀行・クレジット・交通ICが一体となったカードサービスを投入。PASPYと連携しながら、「お客様の生活に入り込んだサービスを提供したい」(広島銀行個人営業部長、小川実氏)と語る。

 「広島県の人口は約300万人ですが、広島銀行は約300万口座を保有しており、その大半のお客様にメインバンクとしてご利用いただいています。広島銀行は地域に密着し、県民の方々の『生活』に根ざして金融を軸とする各種サービスをご提供してきました。

 そのような中で、交通は地域の人々の生活に欠かせないものです。PASPYとの連携は、まずは当行の既存顧客の個人向けサービス拡充と満足度向上のため。そして、(広く)地域の皆様の生活に広島銀行が貢献するために行っています」(小川氏)

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