人口は増える方がいいのか、減る方がいいのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年11月02日 07時53分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 一国経済として考えれば人口が減るというのは大問題であるのに違いない。労働人口の問題というより消費の問題である。子どもが減っていく社会では消費が減る。その分、大人が使えばいいというような議論をする人がいるが、子どもが減る分を補って消費を増やすというのは大変な話だ。

 日本の出生率は1973年まで辛うじて2.1を上回っていた(世界的にはこの2.1が人口を維持するために必要な出生率とされる)。しかしそれ以来、下がり続けてこのところは1.3前後で推移している。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、すでに人口は減り始めており、2050年には1億人を割って9500万人前後になるという。現在が 1億2700万人ぐらいだからだいたい3割減ということだ。この時点で、日本経済のGDP(国内総生産)が今よりも3割減っていたとしても驚くにはあたらないかもしれない。ただそこまでに至る過程は、失業者の増加や治安の悪化などがあり、“イバラの道”になるだろう(もっとも温暖化ガスに関して言えば、経済活動の停滞あるいは衰退は排出削減に一役買うということになるかもしれない)。

 とはいえ世界全体あるいは宇宙船地球号という観点で見た場合はどうだろう。マルサスが1798年に著した『人口論』の中で「人口は幾何級数的に増え、食糧供給の伸びを上回ることで、貧困が発生する」と書いた。その意味では、地球全体の人口が減るのはいいことに違いない、のだろうか?

世界の出生率は2.1を下回る

 エコノミスト誌最新号(11月6日号)がこの問題をカバーストーリーとして取り上げている。出生率は異様とも言えるようなスピードで低下している。国連人口部によれば、ここ数年内にも人類の半分の出生率は2.1あるいはそれを下回るという。2000年から2005年の間は、世界人口65億人のうち29億人が出生率2.1かそれ以下の国に住んでいた。しかし2010年代の初めにはこれが70億人のうち34億人となり、すぐに全人口の半分を超えるというのである。そうした国々は、ロシアや日本だけでなく、ブラジル、インドネシア、中国、そしてインドも含む。そして2020年から2050年の間に、世界の出生率は2.1を下回るという。

 もっともそれでも2050年には世界の人口は90億人と推計されているから、出生率が2.1を下回ってくる(すなわち将来人口が減ってくる)のは望ましいと言えるのかもしれない。

 世界の人口を抑制するのには基本的に 3つの方法があるとエコノミスト誌は言う。1つは人口政策、そして技術、それにガバナンスだ。しかし人口政策というのはそれほど効果を上げているとは言えないし、先進国が消費するために発展途上国や低開発国に対して「子どもを産むな」というのは倫理的にも問題がある。

 そうなると、技術開発とそれを支援するようなガバナンスによって、これまでの先進国のようなエネルギー大量消費型の経済発展ではない発展の仕方を途上国にもたらさなければならない。出生率の低下によって地球が救われるわけではなく、地球を救うのはわれわれ(つまり先進国)である、というのがエコノミスト誌の主張だ。

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