ドラマ『不毛地帯』の低視聴率から見える、テレビの不毛地帯

» 2009年11月02日 08時00分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中村修治(なかむら・しゅうじ)

有限会社ペーパーカンパニー、株式会社キナックスホールディングスの代表取締役社長。昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。


 フジ開局50周年ドラマとして放映されている『不毛地帯』。初回の視聴率は14.4%。そして今週放映された第2回放送分は11.1%。豪華キャストと事前の話題性から考えると……予想外の苦戦である。

 第2回放送は11月22日。その時間帯の視聴率は、下記の通りである。

視聴率 放送時間 放送局 番組名
15.4% 21:00−22:48 TBS 秘密の嵐ちゃん! 秋の2時間スペシャル
11.5% 21:30−22:24 日本テレビ 秘密のケンミンSHOW
11.5% 22:30−23:24 日本テレビ ダウンタウンDX
11.3% 22:09−23:25 テレビ朝日 報道ステーション
11.1% 22:00−22:54 フジテレビ フジ開局50周年記念ドラマ・不毛地帯
8.0% 22:00−22:45 NHK ブラタモリ
4.6% 22:00−22:54 テレビ東京 ルビコンの決断

 ジャニーズにも、ケンミンSHOWにも、吉本興業にも視聴率的には負けている。フジテレビ開局50周年記念の最後を飾る連続ドラマとしては、寂しい結果だと思う。想定していたのは2003〜2004年に放映した『白い巨塔』の数字「第1部→初回22.8%、平均21.1%」「第2部→初回25.5%、平均26.2%」だったろう。しかし、“巨塔超え”は難しそうなスタートだ。

 では、ドラマとして不出来なのか? そうではない。むしろ面白い。主人公の壹岐正を演じるのは、前作の『白い巨塔』と同じ唐沢寿明である。壹岐の妻には和久井映見。壹岐の同期で親友には柳葉敏郎。小雪、佐々木蔵之介、天海祐希、竹野内豊と主演経験者級が勢揃い。原田芳雄の大門社長、岸部一徳の里井常務、伊東四朗の久松経企庁長官……。脇役に揃えた実力派俳優の演技も見どころで、たいへん面白い。その上、エンディングテーマにはトム・ウェイツの曲が使われている。

 鼻っから若い女性と子供を眼中に入れていない「非常に重い」「渋い」確信的な大人のドラマなのである。だから、当然のように「女性と子供」には、敬遠される。

 でも、視聴率低迷の原因は、それだけか? 問題は、ドラマの質そのものよりも、テーマ選びにある気がする。

 『白い巨塔』は、病院ものであった。そこには、世の女性達も興味がわく余地がある。しかし、『不毛地帯』には、その余地がない。戦後の総合商社と政界との闇の物語を実生活と結びつけて見ることのできる人たちは、きっと少ない。視聴率が20%を越えるのではないかと考えているテレビ局の時代遅れな期待こそ「不毛」である。このテーマで、視聴率10%がとれるというところに、時代の見識を見いだした方が良いだろう。

 山崎豊子の小説『不毛地帯』のモデルになっているのは、伊藤忠の会長にまでのし上がった人物「瀬島龍三」氏である。総合商社が戦後処理の中で、政界に食い込みながら、日本の戦後の賠償・援助を食い物にして大きくなっていた……その不毛の荒野を渡り歩いた人物である。男としては、少し憧れを抱く人物である。ドラマ『不毛地帯』では、この主人公を、当然のように持ち上げる。美化する。

 しかし、良く考えてみると、戦後日本の政官財が癒着した時代の代表であるような人物を持ち上げるドラマが今の世の趨勢に合っているのかというと疑問だ。

 民主党への政権交代は、「官僚バッシング」の結果でもある。「政治って、いろいろあるのだろうけど……もっと分かりやすくしてね」「賢い人たちだけが世の中を動かして、金もうけするのはうんざり」という国民の答えである。

 その視点で「不毛地帯」を見ると……「官僚にも素晴らしい人達がいる」「賢い人達にも、志がある人たちがいる」「国家はね、いろいろあって大変なんだよ」という言い訳をしているドラマに見えてくる。

 政官財が癒着するという不毛の物語を、視聴率競争という不毛の戦いをするテレビ局が豪華キャストで届ける。その結果として視聴率11.1%。国民や視聴者が、政治やテレビ局にも、これ以上「不毛」を望んでいないのだけは事実である。(中村修治)

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