岡本 写真8のように真田昌幸の甲冑も作品中に出てきますね。
細田 真田というと幸村が有名ですが、そのお父さんの昌幸も面白いんです。地元で戦ったのは幸村ではなく昌幸なので、昌幸の甲冑を出しました。これは上田市立博物館に置いてあるものです。写真だとしっかり照明を当ててきれいになっていますが、僕が見た時はもっと歴史を感じるようなたたずまいでしたね(笑)。
岡本 上田市といえば写真9のように、上田市役所もさりげなく出てきますね。
岡本 写真10は先ほど話に出た、上田わっしょいというお祭りですね。お店も1件1件細かく描き込まれていますね。
細田 駅前のメインストリートのところで、本当はロケハンの時にこの角度で望遠で写真を撮りたかったのですが全然無理でした。なのでロケハンの資料を総合して、こういった雰囲気でこういうものが建っていてみたいに描いていくわけですね。絵コンテで「こういう雰囲気にしたい」と描いていても、ロケハンでその通りの写真を中々撮れなかったりするんです。そういう時はたくさんのロケハン写真を組み合わせて、写真では取れないような絵を描いたりしますね。
岡本 『時をかける少女』でもそうでしたが、街並みを描く時にリアリティを出すため、実際にあるクリーニング屋さんの名前を入れたりされていましたよね。
細田 ロケハンでは「主人公がどういう風に、どういう街の中で活躍するんだろう」と想像しながら見ています。そうしたロケハンの中で、思わず面白いお店に出会ったり、味のある塀を見つけたりというような、街角のちょっとした魅力みたいなものを『時をかける少女』では取り上げたつもりですね。
上田に関しては、街角の魅力だけでなく、歴史的にも風景的にも魅力があるので、それをどういう風に再現するか、例えば上田の方に見ていただいても、「あ、上田だな」と思ってもらえるような風景にできるように一生懸命観察しました。
ただ、写真を撮りまくればロケハンになるかというと、意外とそうではないんですね。だから僕は実はカメラを持っていっていないんです。美術スタッフは自分たちが使う資料になるので、一眼レフでいい写真を撮っているのですが、僕なんかは携帯カメラとかでパチッと撮るくらいで、あまり撮らないんです。
そうするともちろん、美術スタッフが一眼レフで撮った写真はすごくいい写真になっていて、僕のは「何だかな」という感じの写真になります。しかし、写真を撮ることで、ロケハンが終わった気になってしまうことはいけないと思うんですね。そうではなくて、登場人物を思い浮かべながら風景を見たり、原さんに分からないことを聞いたりといったことが、ロケハンでは実は重要だったりします。
原 現地の草花の専門家をコーディネートして、細田さんが聞き取りされたこともありましたね。
細田 植生が分からないんですよ。特に最初に行ったのが冬なので、生えているのが何の木だかさっぱり分かりませんでした。また先ほど上田市が養蚕が盛んだったという話があったのですが、桑畑や桑の木があるのかないのかといったことも調べました。
岡本 写真11は朝焼けですね。早起きしてロケハンを行うこともあるんですね。
細田 朝、日の出の時間を調べて、スタッフみんなで砥石城にのぼって撮ったものです。ただ、木がいっぱいあって、想定したような風景にならなかったので、アニメではもっと分かりやすいような感じ、心象風景的に描いています。
先ほど「上田市の人が見ても上田市だと思ってもらえるような風景を作りたい」と言いましたが、一方ではこのようにすっとぼけて嘘をついて、心象風景化しているところも結構多いですね。
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